この記事では「そして誰もいなくなる(今邑彩)」のあらすじや感想を紹介していきます。
かの名作を意識したタイトルに惹かれ、思わず手にとってしまいました。
【そして誰もいなくなる】のあらすじ・登場人物
名門女子校の式典の最中、演劇部による『そして誰もいなくなった』の舞台上で、服毒死する役の生徒が実際に死亡。
上演は中断されたが、その後も部員たちが芝居の筋書き通りの順序と手段で殺されていく。
次のターゲットは私!?
部長の江島小雪は顧問の向坂典子とともに、姿なき犯人に立ち向かうが…。
戦慄の本格ミステリー。「BOOKデータベース」 より
登場人物(一部のみ)
天川学園
江島小雪……生徒であり演劇部部長。作中の劇ではウォーグレイヴ元判事を演じている。
西田エリカ……生徒であり演劇部所属。作中の劇ではアンソニー・マーストンを演じている。
松木晴美……生徒であり演劇部所属。作中の劇ではロジャース夫人を演じている。
佐久間みさ……生徒であり演劇部所属。作中の劇ではマカーサー退役将軍を演じている。
川合利恵……生徒であり演劇部所属。作中の劇ではロジャースを演じている。
浅岡和子…… 生徒であり演劇部所属。作中の劇ではエミリー・ブレントを演じている。
佐野圭子……生徒であり演劇部所属。作中の劇ではヴェラ・クレイソンを演じている。
砂川睦月……生徒であり演劇部所属。作中の劇ではロンバード陸軍大尉を演じている。
望月瑞穂…… 生徒であり演劇部所属。作中の劇ではブロア警部を演じている。
球磨光代……生徒であり演劇部所属。作中の劇ではアームストロング医師を演じる予定だったが、骨折により急遽出られなくなった。
向坂典子……教師であり演劇部顧問。球磨の代役としてアームストロング医師を演じる。
高城康之……数学教師。
その他
松木憲一郎……松木晴美の父。大学助教授。
皆川宗市……警部。
皆川夕美……宗市の娘。
加古滋彦……皆川の部下。
【そして誰もいなくなる】はどのような人にオススメ?
・アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を読んだ人
・展開が早く、読みやすいミステリーを求めている人
・1990年代ならではの世界観を楽しみたい人
【そして誰もいなくなる】の感想
本書および「そして誰もいなくなった」のネタバレが含まれる部分がありますので、閲覧の際はご注意ください。
ネタバレ無し:「そして誰もいなくなった」を先に読むのがオススメ
タイトルで察しがつきますが、本書はアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」の見立てと殺害順になぞらえた連続殺人事件を描いています。
そのため本書を読む事で、必然的に「そして誰もいなくなった」の内容がある程度分かるようになっています。
これについて、作者自身があとがきで「本歌取り」であると説明していました。
「本歌取り」というのは、広辞苑的な意味では、「和歌や連歌で意識的に先人の作の用語や語句を取り入れて作ること」です。
くだけた言い方をすれば、「先人の作をちょいちょいパクリながら新しい(ように見える)モノを作ること」です。
くだけすぎました?「文庫版新あとがき」より
未読の方に向けておおまかな内容の説明もしてくれるので「そして誰もいなくなった」を読んでいなくても楽しめるように出来てはいるのですが、個人的には、先に「そして誰もいなくなった」を読んだ方が本書をより面白く読めそうだと思いました。
有名すぎる作品が故に、あらゆる形でネタバレを食らいやすいからというそもそもの理由も勿論ありますが、読んでいる最中『元の犯人は〇〇であの手口だから、本書でその役を演じている人物は……』という視点からも推理を楽しむ事が出来るからです。
そして何より「そして誰もいなくなった」を読んでる人にだけ伝わるオマージュもあるため、できるなら先に元を読んだ方が本書をより楽しめると感じました。
むしろあらかじめ、元の犯人を知っていること前提の構成のように見えました。
ネタバレ有り:推理してみた感想
登場人物が非常に多い分、真相と関係がある人物しか掘り下げがないため、直接手を下した犯人自体は分かりやすかったです。
あえて骨折で劇に出られなくなったという球磨を疑っていた時もありましたが、そういう疑い方をする読み手ほど、騙されやすい構成になっています。
しかしそこですべて分かった気になっていると、思わぬところから真実がひっくり返されてしまいました。
警察サイドが犯人を突き止められないまま、プライベートな話ばかりしている時点で疑うべきでした。
また元ネタを知っていると、小雪らしき人物が凶器の斧を持っている表紙の絵など「そして誰もいなくなった」の犯人役を演じる彼女の存在そのものがミスリードになっているところが、オマージュならではの仕掛けのようで面白かったです。
そして更にそこから『さすがにそのまま小雪を犯人にする事はないだろう』という、こちらの予想すらも織り込み済みでどんでん返しをしてくるところには、思わず盛り上がってしまいました。(下記参照
そういう元の展開を意識した構成に弱いです。
ネタバレ有り:元の要素を感じさせるあの人物
「そして誰もいなくなった」の犯人役を演じていた小雪は、事件そのものには無関係でした。
しかし彼女は、事件の犠牲者を増やした間接的な原因であった事が判明します。
小雪は今回事件の担当についた刑事・皆川に、彼が過去に犯した罪を糾弾し、恐喝する電話をかけていました。
これにより弱みを握られている事に気付いた皆川は、早い段階から犯人に気付いていたにも関わらず、あえて見立て通りに小雪が殺害される順番が来るまで犯行を黙認してしまう事となります。
それを知った小雪は更にその罪を糾弾し、償いをするよう皆川に告げた結果、彼は自ら命を絶ってしまいました。
そのため『法の下で裁かれなかった罪を持つ人間を代わりに死に追いやった』という意味で、小雪の立ち位置は元の犯人を意識したものだったように思えます。
しかし『殺人がしたい』という欲求を満たそうと、法の下で裁かれなかった罪を持つ人間を犠牲者に選んだ元の犯人と違い、本書は『法で裁けない罪を犯した人間は、誰がどう裁くべきなにか』という問題提起へと話を持っていったため、同じ要素でこうも話が変わるものかと驚かされました。
明確な答えが存在しない問題なので、小雪が選んだ償い方は賛否両論となりそうです。
最後に
読みやすい文章な上に展開が早いため、飽きずに一気読み出来ました。
「そして誰もいなくなった」を元にした時点でハッピーエンドはないだろうと思っていましたが、こちらもなかなかの後味の悪さを味わわせてくれます。