【感想】「英国古典推理小説集(佐々木徹/編訳)」推理小説が進化していく流れを作品で追う

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ミステリー

この記事では「英国古典推理小説集」のあらすじ・感想を紹介していきます。
犯人やトリックには極力触れていないものの、感想を書く上で話の内容には触れておりますので、未読の方はご注意ください。

せきゆら
せきゆら

個人的に岩波文庫は推理小説のイメージがなかったため、どのような形になっているのか興味が湧いて読んでみました。

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【英国古典推理小説集】のあらすじ

ディケンズ『バーナビー・ラッジ』とポーによるその書評、英国最初の長篇推理小説と言える『ノッティング・ヒルの謎』を含む、古典的傑作八篇を収録(半数が本邦初訳)。
読み進むにつれて推理小説という形式の洗練されていく過程が浮かび上がる、画期的な選集。

「BOOKデータベース」 より

収録作品 

バーナビー・ラッジ(第一章のみ)……チャールズ・ディケンズ
※エドガー・アラン・ポーによる書評付
有罪か無罪か……ウォーターズ
七番の謎……ヘンリー・ウッド夫人
誰がゼビディーを殺したか……ウィルキー・コリンズ
引き抜かれた短剣……キャサリン・ルイーザ・パーキス
イズリアル・ガウの名誉……G・K・チェスタトン
オターモゥル氏の手……トマス・バーク
ノッティング・ヒルの謎……チャールズ・フィーリクス

【英国古典推理小説集】はどのような人にオススメ?

・「バーナビー・ラッジ」の内容を知っている人(感想にて後述)
・作品を通し、推理小説という形式が完成されていく過程を見たい人
・本邦初訳の古典ミステリーが読みたい人(感想参照)

本書はただの推理小説集ではなく、年代順で構成された8作品を通して推理小説の進化を辿っていくという特殊な形式を取っています。
このテーマに沿い、推理小説としてはまだ未完成であった時代の作品をあえて収録しているため、純粋に謎解きを楽しみたい人とは相性が悪いかもしれません。

【英国古典推理小説集】の各短編感想

本邦初訳(編者の知る限り)の作品には☆マーク

1.「バーナビー・ラッジ〜第一章」チャールズ・リケンズ(1841年)+エドガー・アラン・ポー書評

ロンドンから北東20キロに位置するメイポール亭。
ある晩、常連にまじって見たことのない客がいる。
この人物は、近くにある屋敷の前で若い女性を見かけたあれは誰か、と亭の主人ジョン・ウィレットに尋ねる。
(本書より一部抜粋)

他の収録作品と異なり、こちらは「バーナビー・ラッジの第一章を読んだエドガー・アラン・ポーが真相を見抜いたと述べる書評」が話の中心となっております。
そのため本書では「バーナビー・ラッジ」のラストまで読む事は出来ません。
第一章の段階で、あれほどまでに核心へ踏み込んだ書評を出していたのは驚きですね。

せきゆら
せきゆら

今の時代にやったら少なからず反発を受けそうです。

ここで知識不足な私は、これまでバーナビー・ラッジを読んでこなかった事を後悔させられたので、可能であれば未読の方は予習される事をお勧めします。

2.「有罪か無罪か」ウォーターズ(1849年)

資産家バグショーの屋敷にて、召使のサラ・キングが殺害された。
捜査を進めるとバグショーの甥・ブリストーが犯人である事を示す証拠ばかり出て来るが……。

警察モノ。
年代的にまだ推理小説という形式が洗練されていなかったせいか、推理よりも偶発的な要素が大きいように感じました。

3.「七番の謎」(ヘンリー・ウッド夫人)(1877年)

知り合いのメアリーから「部屋の借り手を探している」という手紙を受け取った郷士は、自分達で借り手になってやろうと思い、彼女の元へ向かった。
これを歓迎するメアリーは隣に住む家族とその召使の話を始め……。

犯人自体はストレートで分かりやすいのですが、本書でも書かれている通り人間的要素が強いため、分かった上で先へ読ませる面白さがあります。

4.「誰がゼビディーを殺したか」ウィルキー・コリンズ(1880年)

年を取り、自身の死期を悟った「私」。
カトリック教徒である事から最期に神父を呼び出した私は、過去に犯したある罪を記録してもらう。

いかにも推理小説らしいタイトルですが、内容としては人間的要素の方が強いです。
しかし犯人とその関係者に焦点を当てた「七番の謎」とは異なり、こちらは語り手の人間的要素が中心となっています。

5.「引き抜かれた短剣」キャサリン・ルイーザ・パーキス(1894年)

エビニーザー・ダイヤーの探偵事務所で働くラヴディ・ブルックは、「盗難されたネックレス」と「不可解な短剣の絵」の謎に挑む。

この時代に「探偵事務所で働く女性探偵」という設定が成立していた事に驚きです。
後述のブラウン神父シリーズといい、本書を読むと気になるシリーズが多くて困ってしまいますね。

6.「イズリアル・ガウの名誉」G・K・チェスタトン(1911年)

ブラウン神父一行は、消息不明となったグレンガイル伯爵の生死を調査しに彼の城へ向かう。

一族の設定や城内にある品々がオカルトな雰囲気を出していて魅力的でした。
ホラー要素もあり、読んでいてスリルも味わえます。

7.「オターモゥル氏の手」トマス・バーク(1929年)

ロンドンにて連続殺人事件が発生。
犯人が全く絞れない中、粘り強くこの事件を追っていたとある記者が、ついにその真相に辿りつく。

本書の中で唯一、推理小説が発展した黄金時代に書かれた作品。
評価が高いため、年代問わず本書に採用したという例外的な経緯があったようです。
そのせいなのか私の中では最も読みやすく、面白い作品でした。
知名度が高い「切り裂きジャック」を元にしているため、内容が頭に入りやすかったというのもあるかもしれません。

8.「ノッティング・ヒルの謎」チャールズ・フィーリクス(1862年)

夫・ラ××男爵から巨額の保険契約をかけられた直後に亡くなったラ××夫人。
彼女の死について調査するうちに、驚きの真実が浮かび上がって来る。

本書の目玉であるが故に、ラストに置かれた唯一の長編。
催眠術の元となった「メスメリズム(動物磁気)」を題材にしています。
特殊技術を使ったミステリーは現代でも見受けられますが、まさかこの時代から存在していたとは驚きです。

せきゆら
せきゆら

更に当時は珍しい日付や図を利用した推理にも挑戦していた事から、長編推理小説の元祖と位置付けられているのも納得でした。

最後に

古典だったせいか、なかなか内容が頭に入ってこない部分も多く、自分の読書経験の浅さを思い知らされました。
より多くの読書経験を積み、この手の古典ミステリーも楽しめるようになりたいと思います。

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