この記事では「金雀枝荘の殺人(今邑彩)」のあらすじや感想を紹介していきます。
「◯◯館(荘)の殺人」という名前がついている時点で、読まない選択肢はありませんでした。
いいですよね、館モノ。
【金雀枝荘の殺人(今邑彩)】のあらすじ・登場人物
完全に封印され「密室」状況となった館で起こった一族六人殺しの真犯人は、いったい誰だったのか。
「BOOKデータベース」 より
事件から一年後、真相を探るべく館にやってきた兄弟たちは推理合戦を繰り広げる。
そして、また悲劇の幕が開いた…。
恐怖と幻想に満ちた本格ミステリー。
登場人物(本書の登場人物表より引用)
田宮弥三郎……金雀枝荘の持主。実業家
エリザベート……その妻
茉里杏奴……その娘
沢井潤一……弥三郎の友人。画家
瀬川直吉……金雀枝荘の最初の管理人
玉……その妻
栄吉……その子供
(弥三郎のひ孫たち)
田宮乙彦……茉里杏奴の長男の子供
田宮絵李沙……その妹
川村真里以……茉里杏奴の長女の子供
川村由宇璃……その妹
鈴木冬摩……茉里杏奴の次女の子供
鈴木世範……その弟
神代薫……茉里杏奴の三女の子供
松田杏那……茉里杏奴の四女の子供
松田類……その弟
曾根源次……金雀枝荘の管理人
中里辰夫……招かれざる客。フリーライター
笠原美江……冬摩の友人
【金雀枝荘の殺人】はどのような人にオススメ?
・舘モノのミステリーが好きな人
・見立て殺人モノが好きな人
・密室の謎を解きたい人
【金雀枝荘の殺人】の感想(以下ネタバレ注意)
動機等のネタバレが含まれております。
閲覧の際はご注意ください。
定番の設定がてんこ盛りなのに、綺麗にまとめられている
曰く付きの建物にクローズド・サークル、グリム童話に見立てた密室殺人、そして一族にかけられた呪い。
とにかくベタベタな設定がてんこ盛りなのですが、この手の館モノが好きな人間にはやはりたまらない設定です。
しまいにはいよいよ「幽霊の怨念」という概念まで投入してきたので、はじめはこれで話が本当に纒まるのか不安になりましたが、さすがにトリックに幽霊要素は絡ませずに、ちゃんと本格ミステリーとして終わらせてくれました。
今思えば、文庫判でわずか364ページという短さであるにも関わらず、ここまで綺麗にまとめられていたのは驚きです。
幽霊という力技で説得してくる
出だしからいきなりその存在を匂わせてきたエリザベートの幽霊。
彼女はすべての発端となる人物ではありますが、幽霊として登場してもトリックに影響を及ぼすような立ち位置ではありませんでした。
では何故わざわざ幽霊であるエリザベートを登場させたのでしょうか。
実際の作者の意図は分かりませんが、私は幽霊の存在によって、大量殺人をしでかした犯人の心理に、力技で説得力を持たせるためではないかと思いました。
犯人は弥太郎の言葉に忠実に従って大量殺人を行なっていたといわれていますが、正直それだけで身内どころか初対面の部外者まで躊躇なく皆殺しに出来るのは、無理があるように見えます。
なまじ犯人が通常は「冷静な合理主義者」だった分、素直に従ってしまった所にも余計違和感がありました。
この違和感を拭うためには「狂気的な思想を持つ危険人物」にするか、それこそ「怨霊化した当事者に憑かれた」ぐらいの設定をつけるしかなかったのではないかと思います。
奇抜な設定ではありましたが、犯人の言行不一致な部分に説明をつけないまま終わられるより、よっぽどスッキリ出来て良かったです。
しかしエリザベートも気まぐれで助けてくれるパターンがあるなら、約30年も自身が眠る金雀枝荘を管理してきた曾根も見逃してあげて欲しかったですね。
推理はまったく当たりませんでした
いざ真相を知ってみると犯人もトリックもストレートなのですが、それでも簡単に解かせてくれない構造をしていたのが本書最大の面白い所です。
的外れな推理しか出来なかった私は、まず笠原を呼んで見立て殺人に必要な頭数を増やした冬摩が怪しいと思いかけていました。
しかしそもそも中里の乱入がなければ6人揃っていなかったため、すぐにこの説は断念。
今思えば6人でなくても成立するトリックだったので、根本的に間違っていましたね。
「見立て殺人は殺した順番をごまかす事が目的である」と説明されていましたが、それ以前に私は「6人いなければ犯行が出来ない」と思い込んでいました。
瀬川一家の事件がヒントになっていたのに、都合よくスルーした自分を殴りたいです。
また犯人の人選も読み手が深読みするのを狙ったのか、ストレートな人選にしてくるため、沼にハマればハマる程分からなくなっていきます。
私も考えがこじれて、いよいよ「杏那によると、双子の弟である世範が殺されてから兄・冬摩の内面が世範に似てきたらしい=冬摩は事件当時のアリバイがないので、このとき世範に金雀枝荘へおびきだされて、身代わりの死体として殺されていてもおかしくない。つまり犯人は冬摩と入れ替わった世範!」
などというトンデモ推理をしてアッサリ外してしまいました。
冷静に考えると大分無理がありますね。
犯人とトリックを複雑化させないまま騙せる、作者の技量に完敗です。
最後に
中身はまったく別物の内容となっていますが設定だけであれば、
・西洋の名前をつけられた子孫達
・源氏という名前の管理人
・天候悪化により形成された閉鎖空間
・見立て殺人
とどこか「うみねこのなく頃に」を思い出させてくれる設定で胸が躍りました。
私が知ったのは後でしたが、発売順としては本書の方が先だったようです。