【感想・ネタバレ】「ハサミ男(殊能将之)」殺人鬼が模倣犯を追う異色のミステリー

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ミステリー

この記事では『ハサミ男(殊能将之)』のあらすじや感想を紹介していきます。

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【ハサミ男】のあらすじ・登場人物

美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。
三番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。
自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。
「ハサミ男」は調査をはじめる。
精緻にして大胆な長編ミステリの傑作。

「BOOKデータベース」 より

登場人物(主要人物のみ)
ハサミ男……「わたし」。3人目の獲物を横取りされてしまう。
医師……ハサミ男の面談相手。
樽宮 由紀子……女子高生。ハサミ男による3人目の犠牲者として狙われていた。
磯部 龍彦……目黒西署刑事課の刑事。 
村木 晴彦……目黒西署刑事課の刑事。磯部の先輩。
堀之内 靖治……犯罪心理分析官。

【ハサミ男】はどのような人にオススメ?

・想像の余地を残すミステリーを読みたい人
・警察小説が好きな人
・「殺人鬼探偵」という題材に興味がある人

【ハサミ男】の感想(以下ネタバレ注意)

本書の内容及びインタビューで明かした裏設定等のネタバレが含まれております。
閲覧の際はご注意ください。

「名探偵」にするための構成

本書は連続殺人事件の犯人であるハサミ男と目黒西署刑事課の刑事・磯部の視点が同時進行で進んでいきます。
多重人格者であるハサミ男はもう1つの人格〈医師〉と。
磯部は同僚の刑事や犯罪心理分析官・堀之内と共に調査にあたっていきます。
「ミステリーで多重人格は禁じ手ではないか」という意見もありそうですが、作者が下記のインタビューで話している通り「トリックとは一切関係がない演出のために入れた設定」な上、序盤から多重人格である事を隠す気がない描き方をしているため、セーフかと思われます。

「殺人鬼探偵」という設定を活かすために、ハードボイルド的な行き当たりばったりの探偵ではなく「名探偵」にしたかった。
「私には最初から分かっていた」と言わせたかったんです。
そのため、人格分裂というのが招来される。
そうすれば、「わたし」の視点で書いていても、分裂人格の「医師」のキャラクターは三人称で書けるわけです。
この医師の見たこと考えたこと気付いたことは書かなくていい。
そういう技術的な事情から導入されたものなんですね。 

ユリイカ1999年12月号「本格ミステリvsファンタジー/殊能将之(聞き手:小谷真理)

ちなみに理由は不明ですが、磯部視点も似たような構造となっています。
彼の場合は別人格ではなく同僚達が「(ほぼ)最初から模倣犯が分かっていた名探偵」の役割を担っていました。
それでも彼らがハサミ男の真相に到達出来なかったのは残念ですが、ハサミ男の犯行が続く事を示唆するラストを見るに、再び彼らがハサミ男の謎に挑む日もそう遠くはないのかもしれません。

せきゆら
せきゆら

ミスリードや構成の都合により、磯部だけ頼りない人物にされたのはやや気の毒ですね。

想像の余地を残していったハサミ男

本書の半分はハサミ男視点で進んでいたにも関わらず、その動機や過去についてはまったく明かされません。
ラストでも「親の存在を認識出来なくなる程のトラウマが家庭環境にあった」という事ぐらいしか分かりませんでした。
しかしインタビューで作者はこのように明かしています。

あれは要するに自殺願望なんです。
彼女は、自分に似た女の子を殺して廻っている。
たまたま殺しそこなった女の子が一番自分に似ていたんです。
まあそれは裏設定で、そんなことは一言も書いていませんが。

ユリイカ1999年12月号「本格ミステリvsファンタジー/殊能将之(聞き手:小谷真理)

この話を元に本書を振り返ってみると、確かに心当たりのある描写が多くありました。

・ハサミ男が被害者として選ぶのは「成績が優秀な女子高生」
→ハサミ男も女性。
慎重な犯行に高い情報収集能力、更に主人格を名乗る〈医師〉の博識さを見るに、彼女も頭が良い事がうかがえる。
女子高生が対象なのは、アルバイト先で得られる情報が元になっているから?もしくはハサミ男自身の高校時代に家族との間で何かが起きた?

・毎週土曜になると自殺未遂を繰り返す。
→強い自殺願望を抱いている。
土曜なのは会社に迷惑をかけないよう、日曜で体調を回復させるため。

・社会人として迷惑をかける事に罪悪感を抱く反面、殺人にはまったく罪悪感を抱いていない。
しかし模倣犯の殺人は当たり前のように非難していた。
→ハサミ男は無意識に被害者へ自己投影しているため、自身の行為を殺人ではなく自殺と認識している。
模倣犯の動機が自殺願望ではないと知るとすぐ非難したため、おそらくそこで線引きしている。

・いつの間にか事件ではなく由紀子自身に興味を持ち、自身でも理由が分からないまま彼女について調べていた。
→自分に似ていたからもっと知りたくなった。
具体的にどこが似ていたのかは不明だが、由紀子は周囲から「家庭内では誰かから話しかけられない限り、家族をいないものかのように扱っていた」「感情がない分、他人の反応を観察する事に興味はある」と言われている。

しかし裏設定をふまえた上で振り返ってもまだ不明点はあるため、ハサミ男の内面については基本的に読み手の想像に任せるスタンスのようです。

推理しながら読んでみた感想

「ハサミ男」という、ミステリー小説でわざわざ男性に疑いを向けさせるような呼び名がついていた事や、遺体の第一発見者に女性が紛れていた事から「ハサミ男=女性」という部分には何とか辿り着けました。
一度女性だと思って読んで見ると、周囲の言動も別の捉え方が出来るように作られていたのが非常に面白かったです。
とはいえ作者がインタビューで『途中で女性だとわかったという読者は半分くらいいると思います。』と話していたため、そこまで難易度は高くなかったようです。
作品が刊行された25年前と比べて、今は女性のサイコ・キラーが登場する作品も珍しくないので、当時よりも先入観で騙されづらくなったのも難易度が下がった要因かもしれません。

それでも物語内でハサミ男とミスリードされている日高と「体型が同じ」という部分には悩まされましたが、遺体を発見した女性の容姿について言及がなかった上、偶然居合わせた相手の体型が同じでも、おかしな話ではないのでスルーしていました。
まさか「太っていると思い込んでいた」というオチだったのには驚きましたね。

せきゆら
せきゆら

自殺願望を持ちながら、生きる事につながる「食事」は大好きという矛盾を抱える彼女だからこそ、健康的な自身の体型が許せなかったのでしょうか。

その一方で、模倣犯の真相には全く辿り着けませんでした。
せいぜいプロファイリングの肩透かし感が気になったぐらいで、由紀子の家族や学校関係者ばかり疑っていました。
「ハサミ男の正体が男性とは限らない」と予想をしたせいで容疑者候補が広がってしまった事が、こちらの推理では裏目に出たようです。

最後に

本書の感想からはやや逸れますが、作者のインタビューで印象に残った発言があったので引用させていただきます。

「伏線」なんです。
本格ミステリーというのは、要するに伏線なんです。
「ハサミ男」に自殺願望がある、一種の多重人格である。
なぜかというと伏線だからです。
結局ああいう結末にしたいがために、ああいう人物設定になったわけです。
ところが、そういう人物設定にすると、やっぱり読者が反応する。
そこが本格ミステリーの面白さなんです、実は。
つまり、それは想像力からは出てこないものなんです。

ユリイカ1999年12月号「本格ミステリvsファンタジー/殊能将之(聞き手:小谷真理)

謎解きの伏線として作られた人物設定から妄想を膨らませるのは大好きだったのですが、まさか約25年前からそれを指摘されていたとは思いませんでした。

せきゆら
せきゆら

それだけ経った今でも、本格ミステリーの面白い部分は変わらないという事なのでしょうか。

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