この記事では「つきまとわれて(今邑彩)」のあらすじや感想を紹介していきます。
以前「そして誰もいなくなる(今邑彩)」を読み、作者の他の作品にも触れてみたいと思い、手に取りました。
【つきまとわれて】のあらすじ・登場人物
別れたつもりでいても、細い糸が繋がっている。
ハイミスの姉が結婚をためらう理由は別れた男からの「幸せな結婚ができると思うな」という嫌がらせの手紙だったというが…。
表題作のほか、幼い頃に家出した母に纏わるあり得ない記憶を辿る「帰り花」、ある絵画に隠された秘密に迫る「吾子の肖像」など前の作品の人物が登場する異色の短編集。「BOOKデータベース」 より
【つきまとわれて】はどのような人にオススメ?
・「直前の短編に登場した人物が、その次の短編で主役になる」というリレーのような構成の短編ミステリーが読みたい人
・ホラー、ミステリー、サスペンス等、様々な短編を読みたい人
・事件性のある謎から日常の謎まで、あらゆるタイプのミステリーが読みたい人
ネタバレ有り:【つきまとわれて】の各編感想
1部ネタバレが含まれる部分がありますので、閲覧の際はご注意ください。
犯人はお前だ
ある漫画家が、妹を毒殺した犯人を指摘するミステリーらしいストーリー。
事件部分が省略され、出だしからいきなり犯人当てが始まりました。
被害者を含めて登場人物が4人しかいないため、一見簡単に犯人が分かりそうに見えます。
しかし話がめまぐるしく二転三転していくため、そうアッサリと当てさせてはくれません。
過去に作者の作品を読んだ時も、同じ手法で翻弄されましたが、今回も同じく混乱させられてしまいました。
帰り花
「犯人はお前だ」で犯人候補の1人だった山内が事件後、まさかの主人公に抜擢されます。
山内が幼少時代に出ていったとされる、実母の行方を推理する話。
この話では、家族の証言や家の状況から、山内が母親の行方を推理しますが、後にすべて最後の短編「生霊」への前振りに過ぎないものだという事が、判明します。
「生霊」を読み終えた今だと、元々結婚するはずだった妻を奪われた挙句、実母は父と義母に殺されたと勘違いしている山内が改めて不憫すぎると思いました。
つきまとわれて
表題作。
主人公が山内から、妻の真奈美へと交代します。
結婚願望があるにも関わらず、突如お見合いの話を断った真奈美の姉・明美の秘密に迫る話。
他の短編と比べ、非常にホラー要素が強いストーリーでした。
当初は言われるがまま、真奈美に庄司の対応を任せた明美。
真奈美に真実が伝わるのも時間の問題という状況でしたが、ここから彼女が何をしでかす気だったのか気になる終わり方でした。
六月の花嫁
「つきまとわれて」で、探偵として登場した陽子が主人公です。
かつて陽子の探偵事務所へ、ある調査を依頼した人物の秘密に迫る話。
ヒントが分かりやすく、本書の中でもかなり難易度が抑えられていたように感じました。
また謎解き以上に、好奇心で自身の顧客だった人物のプライバシーを暴き始める陽子へのツッコミが止まりませんでした。
30年ほど前に刊行された作品だからなのか、このあたりの情報管理に対する認識が、今と大きく異なっていたように思えます。
吾子の肖像
「つきまとわれて」で明美のお見合い相手として登場した弁護士・金森が主人公。
前回、明美とのお見合いを断る理由として言及されていた金森の元妻・操も登場します。
画家・小島守生の美術館にある絵画「吾子の肖像」に込められた真実へ迫っていく話。
「吾子」の意味に気付いた時が、本書の中で私が1番スッキリした瞬間だったので、かなりお気に入りの作品でした。また謎とはまったく関係がありませんでしたが、金森の母親が何とも言えない存在感を放っているのが不気味でした。
お告げ
かつて操の教師を勤めていた児島珠子が主人公。
金森も引き続き登場します。
珠子と同じマンションに住む、予言を的中させる住民の謎を解く話。
こちらの作品も「その手があったか!」とスッキリさせてくれる話なのですが、金森と操の復縁については、読み手の想像に委ねる形で終わってしまいます。
特に金森は本書の中でかなり存在感がある人物だったので、余計にどうなったのか気になってしまいました。
逢ふを待つ間に
大学教授・横山とその教え子達が、偶然飲み屋で一緒になったサラリーマンから、パソコンゲームをプレイしていた頃に起きた不思議な出来事を聞く話。
この話だけ、他の短編に出てきた人物がいないと思っていましたが「お告げ」を読み返してみると、珠子と同じマンションに住む住民として、横山は名前のみ挙げられています。
恥ずかしながら、私はまったく気づきませんでした……。
ストーリーは謎解き以上に、当時作者がパソコンゲームにどハマりしていたのもあり、パソコンゲームに対する解説や熱量の凄さが印象的です。
更に本書のあとがきでも、作者のパソコンゲームについての熱い語りを見る事が出来ます。
そういう意味では、本書において異色の作品といえるかもしれません。
生霊
「逢ふを待つ間に」と同じ飲み屋のママ視点から、横山の姪が生霊に憑かれた話を聞く。
同じく横山の教え子として登場していた菅野も、飲み屋のアルバイトとして再登場します。
生霊の話は、姪と同級生が口裏を合わせて騙している所までは読めたのですが、長い髪の毛も偶然同級生のものがついただけかと思っていたので、その正体には驚かされました。
しかしそれだけで話は終わりません。
むしろここからが本番でした。
最終的にこの『生霊』というワードが「帰り花」の真相(母親の行方)を覆してしまったのです。
「帰り花」は既に山内によって真相が判明したものだと思っていたので、これはまったく予想外の展開でした。
「逢ふを待つ間に」で、飲み屋のママが過去の話をしたがらないと言われていた時は、何かの伏線かとは思いましたが、まさかこのためだったとは。最後に面白い作品を読ませていただきました。
最後に
どれも話が短いため、時間が空いた時にサクッと読む事が出来ました。
ストーリーのジャンルや謎の種類も多く、読んでいて飽きません。