【感想】「姑獲鳥の夏(京極夏彦)」百鬼夜行シリーズの始まり

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ミステリー

この記事は『姑獲鳥の夏』についてあらすじ・感想などを紹介しています。
真相そのものには触れていませんが、一部主要人物に関するネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。

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読み始めようと思ったきっかけ

かの有名な百鬼夜行シリーズでしたが、恥ずかしながら私は「妖怪モノっぽいから、ミステリーとして読むにはハードルが高そう」と決めつけ、これまで読んできませんでした。

「鈍器本」と呼ばれるほど、ページ数が多いイメージが強かったのも何となく避けていた理由の1つですね。
しかし最近、SNSや日常で作者に触れる機会が偶然重なったため、読むならこのタイミングだと思い、手を出してみました。

【姑獲鳥の夏】のあらすじ

この世には不思議なことなど何もないのだよ—
古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。

東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。
娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。
文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。

「BOOKデータベース」 より

ある日文士・関口は古書店「京極堂」を訪れます。
彼の目当ては京極堂の店主・中禅寺秋彦
学生時代から十五、六年もの付き合いのある友人です。
そんな京極堂の元へ関口はある噂を持ち込みました。
「二十箇月もの間子供を身籠っていることが出来ると思うかい?」
この噂話を発端に京極堂と議論するうちに、密室から失踪したという夫は彼らの旧制高校時代の先輩・藤野牧朗だと判明し……。

【姑獲鳥の夏】はどのような人にオススメ?

・民俗学が好きな人
(興味が無いと特に序盤は読みづらいかもしれません)

・魑魅魍魎をテーマにした妖しげな世界観が好きな人

・突き抜けた個性を持つ主要人物達に翻弄されたい人

あらゆる意味で尖った作品であるため、刺さる人と刺さらない人でハッキリ分かれそうな印象を受けました。

【姑獲鳥の夏】の感想

感想を述べる上で必要なネタバレをしているため、未読の方はご注意ください。

意外性のある探偵役

まず優秀な探偵や刑事がいるにも関わらず、実際に推理をするのは“古書店の店主兼陰陽師”という変わった設定に驚かされました。
私に至っては事前情報を入れていなかったことで(検索のサジェストでネタバレされる事があるため)、憑き物落としのくだりあたりまで秋彦(古書店の店主兼陰陽師)が探偵役だと気づかず……。
てっきり特殊能力を持つ破天荒な探偵・榎木津がその役目を担う事になると思っていました。
(知れば知る程、榎木津はミステリー小説の探偵役に向かなすぎると分かってきますが)

しかしこれまで自分が想像していた陰陽師と、秋彦の陰陽師としての在り方は全く異なっていると気づけた瞬間、彼が探偵役であることに納得がいきました。
まさか冒頭から90頁程度まで展開された秋彦の蘊蓄(うんちく)が、すべてそこへ繋げるための伏線だったとは驚きです。
今思うとあの蘊蓄は、読み手に本シリーズの世界観を伝えるのと同時に、ヒントをばらまいている事に気づかせないようわざと長い尺を取り、話をややこしくしていたのですね。

せきゆら
せきゆら

こういう手法を用いた作品は読んだ経験がなかったので、とても驚かされました。

独特な助手役の視点

本書は文士・関口の視点からストーリーが展開されていきます。
噂を調査する関口の視点が選ばれるのは、一見当たり前のようにも見えるのですが、それ以上に彼の脳を通し読み手に届けられる歪んだ世界こそが、本書の妖しい雰囲気を作るのに一役買ってます。

せきゆら
せきゆら

なぜ関口の世界は歪んでいたのでしょうか。

関口は自ら持ち込んだ噂を調査するにあたり、彼が患っていた鬱病や記憶障害の発端となった過去に関わる必要がありました。
これは完全に関口のトラウマを掘り起こす事になるため、彼の視点は意味深な記憶が出てきたり、情緒不安定になる場面等が多く出てきます。

せきゆら
せきゆら

そのため読み手は、彼の脳内の世界に終始振り回される事になります。

話が進むにつれ、周囲が関口の言動に違和感を抱いてくるため、何かしら認識のズレがあるとは分かるものの、それがどこに繋がっていくか見当がつかないもどかしさ。

しかしこの泥沼にはまっていく感覚がだんだん病みつきになっていきます。

そのため関口によって歪曲されたこの世界観にどれだけ引き込まれるかどうかで、作品の評価が分かれそうだと思いました。

心理描写が巧いため、関口の世界に入り込むのはそう難しくはありませんが、客観的な視点で謎解きをしたい人には合わない趣向ではあると思います。

せきゆら
せきゆら

関口の世界に入り込めないと、完全に置いていかれますからね。


また魅力的な人物設定がなされている秋彦や榎木津と違い、関口はこのトリックを成立させるために必要な人物造形(思い込みが激しすぎる、癇癪を起こしやすい)をしているため、読んでいてストレスを感じさせられる場面が多かったのも、評価が分かれそうなところだと思いました。

関口に良くない部分が多いのは確かなのですが、やや気の毒になるほど損な役回りでしたね。

最後に

ここまで広がった話を本当に最後でミステリーとしてまとめるつもりなのか?
と半ば信じられないまま読み進めていましたが、想像よりもはるかに論理的な謎解きをしてくれました。
最初の蘊蓄のくだりで心が折れかけましたが、諦めずに最後まで読んで良かったです。

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