この記事は『カササギ殺人事件』についてあらすじ・感想などを紹介しています。
ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意くたさい。
【カササギ殺人事件 】のあらすじ
1955年7月、サマセット州にあるパイ屋敷の家政婦の葬儀が、しめやかに執りおこなわれた。
「BOOKデータベース」 より
鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは…。
その死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。
余命わずかな名探偵アティカス・ピュントの推理は—。
アガサ・クリスティへの愛に満ちた完璧なるオマージュ・ミステリ!
アティカス・ピュントは過去、多くの事件を解決させてきた私立探偵。
しかし65歳になった彼の体は頭蓋内腫瘍に蝕まれており、残る余命は3ヶ月であると医師から宣告されます。
生前整理に時間を使うため、今後新たな依頼の引き受けを停止するつもりでいたピュント。
しかし病気について一切知らされていなかったピュントの助手・フレイザーは勝手に依頼の電話を受けてしまいました。
依頼人は、パイ屋敷で亡くなった家政婦の息子と交際する女性です。
彼女は亡くなった家政婦と、その息子の仲が険悪だった事から「息子が事故を装い、母親を殺したのではないか」と周囲が騒いでいる事に心を痛めていました。
その時のピュントは、可能な限りのアドバイスをしつつ「公的な力を持たない自分に出来る事はない」と依頼を断るのですが……。
【カササギ殺人事件】はどのような人にオススメ?(レビューまとめ)
Amazonレビューでは下記のような感想がありました。
(本文については、レビューを見た私の所感も含まれています)
・犯人の絞り方に違和感
後述しますが、構成に関しては評価が真っ二つに分かれており、合わなかった人からは「構成が凝り過ぎて読みづらい」等の意見がありました。
また基本的に推測で謎解きを進めていくため、証拠が無いまま答えを導く展開に対する批判もありました。
「決定的な証拠でどんでん返し」という展開を期待する人には向いていないかもしれません。
その一方で、肯定的な意見も紹介します。
・現代と古典ミステリーが上手く融合されている。
・英国に馴染みがある人向け
批判的な意見もあるものの、構成に関して「斬新」「面白い」と高評価する声も多数ありました。
どちらにせよ、あの構成を1つの作品としてまとめあげた構想力には驚かされます。
またあらすじにある通り、アガサ・クリスティを意識した英国ミステリーであるため、現代の作品でありながら古典ミステリーの雰囲気を味わえる所が高評価でした。
登場人物の設定から建物の名前まで、随所にアガサ・クリスティのオマージュが見られるため、見つけてニヤリとしたい人にオススメです。
【カササギ殺人事件】の感想
感想を述べる上で必要なネタバレはしているため、未読の方はご注意ください。
(構成についてネタバレがあります)
好みがはっきりと分かれる構成
上巻のあらすじではうやむやにされていましたが、下巻のあらすじでは本書最大の特徴である構成について、はっきりネタバレしています。
名探偵アティカス・ピュントのシリーズ最新作『カササギ殺人事件』の原稿を結末部分まで読んだ編集者のわたしは、あまりのことに激怒する。
「BOOKデータベース」 より
ミステリを読んでいて、こんなに腹立たしいことってある?
原因を突きとめられず、さらに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、予想もしない事態だった—。
ミステリ界のトップランナーが贈る、全ミステリファンへの最高のプレゼント!
実は上巻の冒頭から「カササギ殺人事件」は作中作である事が明かされています。
構成は全く異なるものの『迷路館の殺人(綾辻行人)』を思い出してしまいますね。
主に上巻は作中作「カササギ事件」が、下巻ではそれを読んだ「わたし」のストーリーが展開されるという入れ子構造になっています。
物語や小説では作中作(さくちゅうさく)と称する。
劇中劇(Wikipedia)
劇の中でさらに別の劇が展開する「入れ子構造」によって、ある種の演出効果を生むためによく使われる技法。
この構造について評価が分かれていたのは、作中作「カササギ殺人事件」の世界観に読み手を引き込み、真実が明らかになる直前の所で、下巻から現実世界の「わたし」のストーリーが始まったからだと思います。
私も最も盛り上がる種明かしの部分をお預けにされた上、アガサ・クリスティーの「ポアロ」を彷彿とさせるアティカス・ピュントの世界観から、いきなり現実世界の「わたし」の話に引き戻された事で、気持ちがついていけなくなった部分はありました。
これを許容出来る人なら楽しめる内容だと思います。
文章で読ませるというよりは、斬新な構成で読み手を惹きつける作品ですね。
怪しすぎる登場人物たち
「カササギ殺人事件」と並行して、現実世界でも事件が起こるため、本書は2つの事件の犯人を同時進行で探さなければいけません。
そのため他作品と比べ、登場人物の数も非常に多いです。
冒頭についている登場人物表ではその数上巻で23人。
新たに下巻で16人追加されます。
数だけを見ると気が遠くなりそうですが、下巻で新たに追加された人物達は、上巻の登場人物の元ネタとなっている人物が多く、まだ覚えやすい方だと思います。
本書の登場人物達は、被害者が嫌われ者である事から皆恨みを持っていたり、何かしらのトラブルを抱えているのが特徴です。
そのため動機から犯人を辿るのが難しくなっています。
更に恨みを持つ者同士で手を組んでいる可能性まで疑わなければいけなくなるため、とにかく犯人を絞るのが難しいです。
ちなみに私は容疑者候補に挙げられていない所から、露骨に怪しい人物を疑ってしまい、見事に間違えました。
後半で急にその人物に疑いが向けられる流れになったのを見るに、これも作者にとっては計算の内だったようですね。
綺麗に引っかかってしまい悔しいです。
大半の人物は事件と無関係で、読み手の混乱を誘うための存在なので、素直に考えれば良かったと後悔しました。
変にこねくり回して考える程、裏目に出る謎解きでしたね。
まとめ
作中作が含まれる作品は過去にも見た事がありましたが、全く異なる2つの物語を1冊の小説として成立させたのは初めて見ました。
感情的に追いつかない所はあったものの、2つの世界で起きた事件を絡ませながら、同時進行で解決していく過程は読んでいてワクワクさせられましたね。
続編を匂わせない終わり方をしていましたが、読後に調べてみたら既にまさかの続編が出ていたのでビックリです。
あのラストからどのように続けるつもりなのか気になるので、いずれ読んでみたいですね。