【感想】「ブルーローズは眠らない(市川憂人)」バラの蔦に覆われた温室で起こる密室殺人

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ミステリー

この記事では前作【ジェリーフィッシュは凍らない】の内容に触れています。
未読の方はご注意下さい。

マリア&漣シリーズの感想記事はコチラから↓

1.ジェリーフィッシュは凍らない
2.ブルーローズは眠らない(当記事)
3グラスバードは還らない

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【ブルーローズは眠らない】のあらすじ

両親の虐待に耐えかね逃亡した少年エリックは、遺伝子研究を行うテニエル博士の一家に保護される。
彼は助手として暮らし始めるが、屋敷内に潜む「実験体七十二号」の不気味な影に怯えていた。
一方、“ジェリーフィッシュ”事件後、閑職に回されたマリアと漣は、不可能と言われた青いバラを同時期に作出した、テニエル博士とクリーヴランド牧師を捜査してほしいという依頼を受ける。
ところが両者との面談の後、旋錠された温室内で切断された首が発見される。
扉には血文字が書かれ、バラの蔓が壁と窓を覆った堅固な密室状態の温室には、縛られた生存者が残されていた。
各種年末ミステリベストにランクインした、『ジェリーフィッシュは凍らない』に続くシリーズ第二弾!

「BOOKデータベース」 より

あらすじにもある通り、本書はマリア&漣シリーズの第2作目にあたります。

前回は「ジェリーフィッシュ」という架空の小型飛行船内を舞台にしたクローズド・サークルもの(外部へ出られず、連絡も出来ない状況下で起こる事件)だったのに対し、今回は鍵がかかった温室で被害者の首と生存者1名が発見される密室殺人となっています。

事件と同時進行で語られる「エリック」という少年の物語は、この事件へどのように結びついていくのでしょうか。

【ブルーローズは眠らない】はどのような人にオススメ?(レビューまとめ)

Amazonレビューでは下記のような感想がありました。

批判的な意見
・遺伝子工学の説明が難しすぎてよく分からなかった
・犯人の行動が回りくどい

前作でも架空の小型飛行船「ジェリーフィッシュ」について、航空工学の観点から構造が説明されていましたが、今作は実現不可能といわれた「青いバラ」の作出について、遺伝子工学に基づいた長い説明があります。
そのため、ここでついていけなくなったという人もいたようです。
しかし前作同様、分からなくても先へ読み進められるよう構成されているため、遺伝子工学に詳しくない人でも楽しめる作品となっています。

また犯人の目的と行動について、整合性が取れていないという意見もありました。
確かに私も読んでいて、トリックに犯人の行動を無理やり合わせていたように感じましたね。
動機を考えると、より簡単に目的を達成出来るやり方がいくらでもありそうなので、ここに違和感を覚える人がいたのは致し方ないかもしれません。

その一方で、肯定的な意見も紹介します。

肯定的な意見
・探偵サイドの登場人物達が魅力的
・SF設定が良い
・2つの視点を交互に見ていく構成が面白い

登場人物、SF設定、様々な視点から物語が進んでいく構成。
どれも前作から引き継がれた要素ですね。
シリーズものとして必要な部分をしっかりおさえていた所が高評価だったようです。

中でも登場人物について、個人的には軍人である事から、続編に出る機会が少なそうなジョン(前作の登場人物)が、割りと雑な流れで頻繁に再登場させられている所に笑いました。

更に、同じく前作で活躍した検死官・ボブも出番は少ないながらも活躍します。
探偵役だけでなく、脇役まで続投してくれたのは地味に嬉しいポイントでした。

せきゆら
せきゆら

前作【ジェリーフィッシュは凍らない】の世界観が好きだった人は、今回も楽しめると思います。

【ブルーローズは眠らない】の感想(ネタバレ注意)

感想を述べる上で必要なネタバレをしているため、未読の方はご注意ください。

前作【ジェリーフィッシュは凍らない】を先に読むのがオススメ

ジェリーフィッシュ事件の結末を受け、本書では冒頭からマリアと漣、更には軍人のジョンすらも閑職に飛ばされた所から物語が始まります。
更に事件の後日談も少しだけ含まれているため、先に前作【ジェリーフィッシュは凍らない】を読む事を強くオススメします。

一応本書でも事件について説明はあるものの、ジェリーフィッシュそのものの説明については省かれているため、今作でも当たり前のように空を飛んでいるジェリーフィッシュが何なのか混乱する人も出てきそうだと思いました。

更に欲を言えば、前作を読んでからすぐ本書を読んだ方が、話が頭に入ってきやすいです。
というのも前回、別の署の刑事として登場した「ドミニク・バロウズ」が今回の事件に関わってくるのですが、私は前作からやや間が空いた状態で読んだため、マリアの説明を聞くまで同一人物だと気づく事が出来なかったからです。

せきゆら
せきゆら

これは私の覚えが悪かったのもあります

勿論前作のドミニクを知らなくても、謎解きに支障はありませんが、本書を余すところなく楽しみたい人は前作の復習だけでもしておいた方が良いと感じました。

ちなみにストーリーとしては、前回出番がほとんどなかったドミニク・バロウズに焦点を当てていたのが、新鮮で面白かったですね。
確かにただの端役で終わらせるには勿体無い、有能かつ情熱的な刑事として描かれていたため、今後のストーリーに関わってきてもおかしくない人物でした。
今回マリア達の元に青いバラの話を持ち込んだり、彼の行動が結果的に犯人の計画を阻止していたりと、なかなか美味しい役どころをもらっています。

今回は2つの視点から真相に迫る

あらすじにもある通り、本書は下記2つのパートが同時進行します。

プロトタイプパート
「エリック」という少年の過去の話。
ブルーローズパート
前作の「地上パート」同様、マリア・ソールズベリーとその部下・九条漣による捜査パート。
インタールードもありますが、わずか2ページのみなので除外

複数の視点から事件の全貌に迫っていくこの構成は、前作【ジェリーフィッシュは凍らない】を彷彿とさせますね。

しかし前作と全く同じ形式という訳ではなく、各パートでは似ているようで微妙に時系列や状況が合わない2つの事件が同時進行していきます。
そのため読んでいる途中は話の整合性が取れず、読み手は混乱させられる事となります。
おかしな点は分かりやすくマリア達が挙げているにも関わらず、理由は全く説明がつかないため、終始もどかしい気持ちが続きました。

しかしこれにより一気に謎へ惹きこまれたため、構成としては成功だったと思います。今後もこの構成は是非続けて欲しいですね。

「怪物」に惑わされる

プロトパートにて、研究者であるテニエル一家の元で居候する事となった少年エリック。
しかしとある出来事を機に、彼は「入ってはいけない」と一家から言われていた地下室に入ってしまいます。
そこで見たのは、人間のような四肢らしき体を持ちながらも、
「凹凸だらけの顔。膨れ上がった手。生肉が皮膚から破れ出たような外面」をした怪物。
テニエル博士はこの怪物を「実験体七十二号」と呼んでいました。
「実験体七十二号」を見たエリックは、あまりの恐怖で地下室から逃亡。
その際、地下室の鍵を締め忘れた事により、怪物は地下室から脱走してしまいました。
そのまま怪物は行方不明となったまま、プロトパートは終わります。

対して、ブルーローズパートでは全く怪物が登場しません。その代わりに、遺体発見現場である温室の扉には実験体七十二号がお前を見ている」と血文字で書かれていました。
いかにも怪物が事件の重要な鍵を握っているかのようなヒントですね。

そのため私は、
「手口が人為的なので怪物の犯行ではなさそうだけど、犯人の動機には関わってそうだな。
もしかしてアイリス(テニエル博士の娘)と同じ方法で生まれた子で、それを知る犯人がテニエル博士の罪を糾弾しようとしているのか?」
と推理しました。
しかし蓋を開けてみると、怪物の正体は皮膚病を患ったテニエル博士の義父というオチ。
認知症まで発症させた義父は徘徊癖があったため、エリックが開けた扉から脱走してしまいました。
その先で運悪く犯人に出くわし、殺害されます。
温室にあった血文字は、その犯人をおびき寄せるために別の人物が行なったハッタリに過ぎませんでした。

せきゆら
せきゆら

見事に騙されてしまいました

てっきり「怪物」が話の中心に来るものと思い、的外れな推理をしてしまいました。
タイトルにもある通り、素直に青いバラから積極的に要素を拾うべきでしたね。
本書は叙述トリック等、あらゆる手段を使って読み手の混乱を誘ってきますが「実験体七十二号」もその1つだったようです。

まとめ

前作同様、読み始めると真相が気になってしまい、最後まで一気読みしてしまいました。
読後感も悪くない方です。

今回もマリアと漣による、気安げな掛け合いが良かったですね。
重めなストーリーが続くため、これぐらいの空気感が丁度良いです。
具体的な関係性がいまだよく見えない2人ですが、少なくともマリアのとばっちりで閑職に回されたにも関わらず、以前と全く変わらない対応する漣を見るに、それなりの信頼関係はあるようです。

せきゆら
せきゆら

すでにマリア&漣の関係は完成されているようにも見えますが、今後彼らについて掘り下げられる事はあるのでしょうか。

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