【感想】「グラスバードは還らない(市川憂人)」不可思議なガラスの迷宮で起こる殺人

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ミステリー

この記事は『グラスバードは還らない』についてあらすじ・感想などを紹介しています。
ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意くたさい。

マリア&漣シリーズの感想記事はコチラから↓

1.ジェリーフィッシュは凍らない
2.ブルーローズは眠らない
3.グラスバードは還らない(当記事)

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【グラスバードは還らない】のあらすじ

マリアと漣は、大規模な希少動植物密売ルートの捜査中、得意取引先に不動産王ヒュー・サンドフォードがいることを掴む。
彼にはサンドフォードタワー最上階の邸宅で、秘蔵の硝子鳥や希少動物を飼っているという噂があった。
捜査打ち切りの命令を無視してタワーを訪れた二人だったが、あろうことかタワー内の爆破テロに巻き込まれてしまう!


同じ頃、ヒューの所有するガラス製造会社の社員とその関係者四人は、知らぬ間に拘束され、窓のない迷宮に閉じ込められたことに気づく。
傍らには、どこからか紛れ込んだ硝子鳥もいた。「答えはお前たちが知っているはずだ」というヒューの伝言に怯える中、突然壁が透明になり、血溜まりに横たわる社員の姿が…。

鮎川哲也賞受賞作家が贈る、本格ミステリーシリーズ第3弾!


「BOOKデータベース」 より

ある日バーで飲んでいたマリアは、偶然店内で起きた客同士の乱闘騒ぎを止めました。
しかしそこで取り押さえた者達の中に、不法滞在しながら希少動物の密売を行なう者がいた事が発覚。
彼の取引先の中には、この世界で不動産王と名高いヒュー・サンドフォードの名前がありました。
マリアは漣と共に捜査を進めようとしますが、ヒューと繋がりがある署長からすぐに捜査の打ち切りを指示されます。
持ち前の正義感故に諦められないマリアは、仕方なくついて来た漣と共に、ヒューが所有するタワーへ直接捜査に向かいました。

しかし事前のアポがない上、マリアのだらしない服装を見たタワーの受付嬢はすぐにマリアを門前払い。
やむおえず漣と手分けして周囲に聞き込み調査を行なう事にします。

その聞き込みの最中、タワーのエレベーターが開いているのを見つけたマリア。
すかさず飛び乗り、一気にヒューの元まで強行突破を試みます。

また別行動で聞き込み調査をしていた漣もマリアの無茶を察知し、再びタワーにやってきました。
しかしそこで突然、タワー内の一部が爆発。
やむおえず漣はマリアの追跡を諦め、一般市民の避難誘導を行います。

上の階まで登っていたマリアは爆発には巻き込まれませんでしたが、下に火の手が回ったことで降りられなくなってしまい……。

【グラスバードは還らない】はどのような人にオススメ?(レビューまとめ)

Amazonレビューでは下記のような感想がありました。
(本文については、レビューを見た私の所感も含まれています)

批判的な意見
・トリックがアンフェア

・リアリティーがない

今回は架空の技術を根幹にしたトリックであるため、アンフェアではないかという意見がありました。
これまでも小型飛行船・ジェリーフィッシュや青バラなど様々な架空の技術が登場しましたが、今回ほどトリックに組み込まれていなかったことから、今回このような意見が出たのではないかと思います。

そしてもう1つアンフェアといわれていたのは「アレ」に関する記述です。
一応ヒントはあるものの、かなり意地悪な記述の仕方をしているため、納得いかない人が多かったようです。


更に架空の技術に加え、今回はヒューの所有する希少動物(硝子鳥など)やガラス迷宮等、非現実的なものが多く出てきます。
そのせいか「話にリアリティーが無い」というコメントも見られました。

確かに大金持ちというヒューの設定を良い事に、やりたい放題でしたね。
個人的には「あやしげな建物でクローズドサークル」という状況が大好物なので、ガラス迷宮にテンションが上がってしまいました。

せきゆら
せきゆら

その一方で、肯定的な意見も紹介します。

肯定的な意見
・ストーリーが良い

・衝撃の序盤から一気に惹き込まれた

・点と点が繋がった瞬間が心地よい

今回はストーリー性の高さを評価する声が多かったように思います。
これまで探偵役に徹していたマリアに迫る初めての危機という事で、緊迫感が増していたのも理由の1つでしょう。(感想で後述)

更に今回も事件の背景について、丁寧に書かれているうえ、犯人の動機もこれまで以上に納得しやすいものになっているため、ストーリーとしては面白いと思います。

せきゆら
せきゆら

推理だけでなく、ストーリーも楽しみたい人向けだと思いました。

【グラスバードは還らない】の感想(ネタバレ注意)

感想を述べる上で必要なネタバレはしているため、未読の方はご注意ください。
『ジェリーフィッシュは凍らない』『ブルーローズは眠らない』の内容にも触れています)

前作を読んでいることを前提に進むストーリー

今回の事件ではマリア&漣シリーズ第1作目『ジェリーフィッシュは凍らない』に登場した架空の小型飛行船・ジェリーフィッシュが利用されています。
その具体的な構造について本書では説明が省かれている事から、読み手側がこれまでのシリーズを読んでいること前提で話を進めている事がうかがえました。

せきゆら
せきゆら

今回の事件と関係性がある事を示すためなのか、本書の裏表紙に一応ジェリーフィッシュが描かれています。

更に第2作目『ブルーローズは眠らない』からは「アイリーン」が協力者として再登場します。
「マリアの協力者になった」という事実そのものが、アイリーンの結末のネタバレとも取れるため、順番通りに読んでおいて良かったとつくづく思いました。

それにしても、いくら遺伝子工学を研究しているとはいえ、まさかアイリーンがDNA鑑定を担当してくれたのは驚きです。

せきゆら
せきゆら

この様子だと今後の事件でも、DNA鑑定担当として登場しそうです。

緊迫感のある構成

本書の構成は主に2つに分かれています。

タワー〉パート
ヒューの疑惑を捜査していた最中、爆破テロ?に巻き込まれたマリア&漣のパート 

グラスバード〉パート
ヒューのガラス製造会社に所属する社員と、その関係者四人がガラスの迷宮に閉じ込められるパート

あらかじめ犠牲者を明らかにした上で事件を描いた『ジェリーフィッシュ』

時間軸を隠したまま共通点が多い2つの事件を見せ、混乱を誘ってきた『ブルーローズ』

これに対し本書は、ほぼ同時刻に爆発に巻き込まれたマリア達と、迷宮へ閉じ込められたヒューの関係者達のパートが交互に進んでいきます。
そのためリアルタイムで話が進む感覚が強く、先がどうなるか分からない緊張感がありました。

複数のパートを交互に同時進行する構成は変わっていないものの、時間軸を変えるだけでここまで見方が変化するのかと驚かされましたね。

せきゆら
せきゆら

今後はどのような構成で来るのか、楽しみになってきました。

ジョン・ニッセンの大きな変化

シリーズ1作目からマリア達の協力者として、活躍して来た空軍少佐・ジョン。

本書でも引き続き協力者として活躍するのですが、今回はマリアに対し好意を抱いている描写が随所に見られます。

前作まで全くそんな素振りは見せなかったため、その急変ぶりには驚かされました。

確かに前作『ブルーローズは凍らない』のジョンは「さほど自分と関係ない捜査で、マリアにこき使われる軍人」という雑な扱いをされていたため、「マリアに好意があるから」と今後登場するための理由付けをしたのは上手いと思います。

しかし、それはそれで突然マリアに好意を持った理由が気になってしまい、事件に集中出来なくなったので「マリアが殉職するかもしれないという経験を機に、自身のマリアへの好意を自覚した」ぐらいのこじつけでも良いので入れて欲しかったです。

せきゆら
せきゆら

次回作以降で何かしらの説明が入っていたら嬉しいですね。

まとめ(トリックについて少し触れています)

今回のトリックは「新しく登場した架空の技術と、過去作に出た架空の技術を組み合わせる」というこれまでにない新たなパターンで来たため、謎解きの難易度がより上がっていた印象を受けます。

しかも今回紹介された架空の技術により、なんと透明人間に見える手段が出来てしまいました。
本当に透明になる訳ではないものの、続編でこの手段が使われるかもしれないと思うと今から気が遠くなりますね。

せきゆら
せきゆら

ジェリーフィッシュ、青バラ、ガラスの次はどんな技術で惑わせてくるのでしょうか?

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