この記事では「八つ墓村(横溝正史)」のあらすじや感想を紹介していきます。
以前津山事件をモチーフにした「名探偵のはらわた」を読ませていただいた際、元々はかの有名な「八つ墓村」が同じ事件をモチーフにしていた作品だと知りました。
そうなるとこちらも履修すべきだと思い、今更ながら手に取らせていただきました。
【八つ墓村】のあらすじ・登場人物
戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。
だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。
その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村”と呼ばれるようになったという――。
大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。
そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。
現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作! !Amazon紹介ページより
登場人物(多いため一部のみ)
寺田辰弥……主人公、語り手
金田一耕助……私立探偵
磯川常次郎……岡山県警の警部
田治見要蔵……辰弥の父、26年前に村人32人を殺害した後に行方不明
田治見小梅・小竹……双子の老姉妹、辰弥の大伯母
田治見久弥……辰弥の兄
田治見春代……辰弥の姉
井川丑松……辰弥の祖父
里村慎太郎……辰弥の従兄弟
里村典子……慎太郎の妹
野村荘吉……西屋の当主
森美也子……荘吉の義妹
諏訪……弁護士
長英……住職
英泉……英泉の弟子
洪禅……和尚
妙蓮……通称・濃茶の尼
梅幸……慶勝院の尼
久野恒実……村の医者
新居修平……疎開医者
【八つ墓村】はどのような人にオススメ?
・ホラー、冒険、ロマンスなど様々な分野の話が好きな人
・岡山を舞台にした作品に興味がある人
・探偵ではなく、当事者の視点から見たミステリーに興味がある人
【八つ墓村】の感想(以下ネタバレ注意)
犯人などのネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。
ホラーかと思いきや様々なジャンルがまざっている?
八つ墓村という作品自体はあまりにも有名なので、もちろん知ってはいました。
しかし原作を読むまでは、あまりにも「おどろおどろしいホラー」のイメージが強かったため、実際には冒険モノの要素の方が強いストーリーに驚かされました。
不可思議な鍾乳洞を探索しながら宝まで辿り着く過程にはミステリー小説とは思えないワクワク感がありますし、むしろ謎解きよりもこちらの描写に力が入っているようにすら見えます。
ホラーのイメージが強かったのは、映像化が原因だったのでしょうか。
更に驚かされたのは冒険モノに加えて、現代でいうラノベのハーレムモノのような展開まで、50年以上前に刊行された本書で先取りしてやっていたところです。
優秀で姉御肌な美也子、村中からその存在を疎まれる辰弥に唯一味方し続ける姉の春代、そして辰弥のためなら危険を顧みない健気な典子と、辰弥の周囲にいる女性陣はそれぞれ高いヒロイン力を誇っています。
そしてストーリーもてっきり初登場時から好印象な美也子を、徐々に典子が追い抜いていく話かと思いきや、姉・春代まで参戦してきたりと、まさかの展開ばかりで非常に面白かったです。
特に辰弥が要蔵の子ではないと明らかになった後、恐らく最初からそれを知っていたであろう春代の真意をようやく察したのですが、その時には典子がメインヒロインとして覚醒し始めていたところだったので「どう決着をつけるつもりなんだ辰弥……?!」と手に汗握りながら読み進めてしまいました。
読み終わるまでは迂闊に検索してはいけない
本書を読んでいる途中まで、私は事件の犯人が春代だと思っていました。
一連の犯行は毒殺ばかりで強い力を必要としていませんでしたし、春代が倒れて看病されている間は、目の前で人が毒殺されるような事もなかったので、彼女が怪しいのではないかと。
しかし読書の合間に検索エンジンで迂闊にも「八つ墓村」と検索した私は、他の検索候補に「美也子 動機」と出ていたのを見てしまうやらかしをしてしまいました。
ここまで有名作となると、読み終わるまで完全にネットを封印しなければいけなかったんですね。
ちなみに読後に見たWikipediaに至っては、犯人どころか内容までほぼすべてネタバレされていて驚きます。
その後すぐに引き返した私は、結局そこから美也子の動機が気になってしまい、
「そういえば美也子は辰弥が持っていた大判の地図について知っていたな。
本当に諏訪弁護士から聞いたのか確認していないし、元から知っていたのかもしれない。
何なら諏訪弁護士までグルかもしれない。
大判を持ち去ったあたりから辰弥と距離を取り始めていたし、おおかた財宝目当てだろう」
と思いながら先を読み進めていました。
しかし犯人が分かっていても動機は分からないもので、実際の美也子の動機はそんな俗っぽいものではなく、動機どころかヒロインとしても予想を上回る綺麗な裏切りをしてくれました。
純粋に協力してくれていたのに、雑に容疑をかけてしまった諏訪弁護士には申し訳なく思います。
犯人が分かってしまった事で楽しみは半減したものの、それでも動機やミステリー以外の要素で十分楽しめたので、やはり名作だと思いました。
不遇な金田一耕助
金田一耕助シリーズでありながら、これまで全く名前が出てこない金田一。
というのもこの作品は「辰弥が書いた手記」という体で書かれていました。
そのため金田一耕助シリーズではあるものの、実質辰弥が主人公となっているので金田一の出番自体とても少ないです。
金田一自身も「私がいなくても解決した事件」と話すほどです。
金田一の活躍をほとんど見られないのは残念ですが、これはこれで「獄門島」のように、ミステリーの都合で事件を阻止出来ない金田一の違和感が拭えて良いかと思っていました。
しかし事件解決後、なんと金田一は元々西屋の主人からの依頼で、美也子の元夫殺人疑惑を調査しに八つ墓村へ滞在しており、はじめから彼女をマークしていながらも事件を阻止出来なかった事が判明してしまいます。
それでも「美也子が手強すぎたから仕方ない」とギリギリ納得しようとしましたが、警察に美也子への疑惑を共有すらしていなかった事も明かされると、さすがに磯川警部と同じ眼差しをしてしまいました。
その代わりに本作最大の金田一の見せ場として、犯人・美也子との気魄の決闘が用意されていたようなのですが、語り手の辰弥がその場にいなかったため、全カットという不遇な扱いを受けてしまいます。
金田一VS美也子の賢人同士の決戦は是非見てみたかったですね。
獄門島→八つ墓村の順番で読んだせいか、金田一の不遇な扱いに驚かされます。
最後に
不気味なホラーとはかけ離れた爽やかなハッピーエンドだったため、作品に対するイメージが一気に覆されました。
遅くなりましたが、本当に読んで良かったです。
またこれは余談でしたが、はじめはうちは本作を犬神家と混同させて「スケキヨはいつ出てくるんだ?」と思いながら読んでしまっていました。
そちらについてはスケキヨと例の逆さポーズしかまだ内容を知らないので、いずれ挑戦してみたいと思います。