【感想】「殺戮にいたる病 (我孫子武丸 )」犯人が分かっているのに騙されるミステリー

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ミステリー

この記事は『殺戮にいたる病』についてあらすじ・感想等を紹介しています。
感想を書く上で必要なネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。

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【殺戮にいたる病】を選んだ理由

SNSでオススメのミステリー小説として紹介されていたの見て、気になっていた作品の1つでした。
その中でも著者が『かまいたちの夜』やマーダーミステリーのシナリオ等を手がけられている方だったことから、小説も読んでみたいと思い選びました。

【殺戮にいたる病】のあらすじ

永遠の愛をつかみたいと男は願った—。
東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。
犯人の名前は、蒲生稔!
くり返される凌辱の果ての惨殺。
冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。

「BOOKデータベース」 より

あらすじは犯人・蒲生稔に関する説明のみとなっていますが、構成としては稔を加えた下記3人の視点から話が進んでいきます。(エピローグのみ神視点)

蒲生稔
一連の事件の犯人。
自身の思想や犯行等について語る。
過激な描写が盛りだくさんなので、苦手な人は要注意。
蒲生雅子
蒲生家の専業主婦。
息子が一連の事件の犯人ではないかと疑い始め、不安な日々を送る。
樋口武雄
元刑事。
被害者であり自身を慕っていた敏子の妹・かおると共に真相に迫る。

せきゆら
せきゆら

話は第1章〜第10章まであり、基本的にはこの3人の視点がめまぐるしく切り替わっていきながら進んでいきます。

【殺戮にいたる病】はどのような人にオススメ出来る?

・ミステリー小説を読み慣れてきた人
・怖いもの見たさで、おぞましい話を読みたい人
・1980年代の出来事に詳しい人

ミステリーとしては特別難易度が高い訳ではないのですが、ある程度ミステリー小説に慣れていた方がトリックをすんなり理解しやすそうだと思いました。

また本作には過激な描写(性的、スプラッタ等)が多く含まれています。
そのため純粋にミステリーとして楽しむために読んだ人の中には、トラウマになってしまう人も出てくるかもしれません。
伏線は至る所に散りばめられているため、どうしても耐えられなくなった人はその場面だけ飛ばしてしまうのも手です。

【殺戮にいたる病】の感想(ネタバレ注意)

内容について一部ネタバレをしているため、未読の方はご注意ください。

1980年代に詳しい人は話が入ってきやすい

『殺戮にいたる病』は出版当時(1992年)の出来事を色濃く反映した作品であるため、特に1980年代の出来事が分かる人には話が入ってきやすいです。

というのも本書は1988年ー1989年に起きた東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件が何度か話題にされている上、稔の犯行手口もこの事件を意識して書かれたものだからです。
しかし本文の中ではさすがに事件名は伏せられていたため、勘の悪い私は推理に関係のある要素だと勝手にミスリードしながら読み進める大失敗をしてしまいました……。

更にもう一つ、稔は殺人の際に岡村孝子の『夢をあきらめないで』(1987年)を毎回流しています。
実際に存在する曲を、あの惨殺シーンのBGMとして引用していたのは非常に驚きました。

本書は叙述ミステリーの中では名前が挙がりやすい作品かと思われるのですが、これに釣られて読んだ人間に、
『夢をあきらめないで』→トラウマレベルの惨殺場面
というイメージを植えつけていったのはなかなかの罪だと思います。

せきゆら
せきゆら

おかげで私の脳内でも、恐怖のBGMとして刻み付けられてしまいました。

殺戮にいたる病=歪んだ母性(父性)の求め方?

全体の内容を通して、加害者だけでなく被害者も異性の親に強い愛情を抱いていたのが特徴的でした。

稔が凶行に走ったのも、元をたどれば幼少時、ある出来事を機に母親へ抱いた性的興味を両親に抑え込まれたのがきっかけです。
長年抑え込んでいた反動もあり、その関心は母の面影を感じさせる女性と出会った事で制御が効かなくなってしまいました。

はじめはマザーコンプレックスかと思っていましたが、父への憎悪も含まれていた事から、この場合はエディクスコンプレックスが近そうです。

母親を手に入れようと思い、また父親に対して強い対抗心を抱くという、幼児期においておこる現実の状況に対するアンビバレントな心理の抑圧のことをいう。

エディプスコンプレックス – Wikipedia

対して被害者の1人である敏子は、父親ほどの年齢差がある元刑事・樋口に恋愛感情を抱いていました。
その理由について敏子の妹・かおるは
「私たちの父に似ていたから。
父は妹である私の方が可愛いと思っていた事に敏子は気づいていた」
と推測しています。
こちらは稔のように独占欲のある愛情には見えなかったため、素人判断ですがエクストラコンプレックス(エディプスコンプレックスの女性版)よりはファーザーコンプレックスの方が近いように感じました。

父親と距離を置くような厳格な家庭で育った場合、厳しい父親に表面的な愛情表現をされないまま成長してしまったために、その欠落感を埋めるために父性的なものに憧れ、ファーザー・コンプレックスが形成されるとされる。

ファーザーコンプレックス – Wikipedia

稔が被害者に選んだ女性達は母親の面影以上に、子供の頃の稔に似ていたからという理由が含まれていました。
他の被害者女性達についても情報が少ないものの、明らかに年齢差がある稔の誘いを自らの意思で受け入れたことから「似ている」判定には当てはまっているかと思われます。


読後に「殺戮にいたる病」の意味が何だったのかを考えていましたが、「父性を求めて」ではなく姉・敏子のものを横取りしたくなる性分から、樋口を慕っていたに過ぎなかったかおるはギリギリ殺されずに済んだ結末を見るに、
「母性(父性)を歪んだ形で求める病によって、殺戮する(される)にいたる」
という意味だったのではないかと思いました。

せきゆら
せきゆら

単にタイトルの元ネタが『死にいたる病(セーレン・キルケゴール)』だったからと言われればそこまでですが、どうしても深読みしたくなってしまいます。

最後に

あらすじから、いきなり犯人の名前を明かすという大胆な試みを成功させた本書。

私も読みながら「あの雅子が『稔さん』なんて呼び方をするか?」と思ったりと、いくつかの違和感は感じていましたが、結局真相を見抜けず最後はスッカリ騙されてしまいました。

改めて読み返してみると、巧妙に色々と隠されていた事(ビニール袋のくだり等)が分かるのですが、気づかないものですね。
たった1つのトリックだけで勝負しているにも関わらず、最後まで悟らせないのはお見事でした。

せきゆら
せきゆら

過激な描写は賛否が分かれそうですが、それもトリックから読み手の意識を逸らす目くらましに過ぎないと思えば、納得がいきました。

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