【感想・ネタバレ】「獄門島(横溝正史)」不吉な島で命を狙われる三人娘の行く末は

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ミステリー

この記事では「獄門島(横溝正史)」のあらすじや感想を紹介していきます。

感想を書くには今更すぎるほど有名な作品なのですが、嫌な予感しかしない島の名前に見立て殺人モノの名作と聞くと、どうしても怖いもの見たさで手を出してしまいました。

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【獄門島】のあらすじ・登場人物

「おれがかえってやらないと、三人の妹たちが殺される…代わりに獄門島へ行ってくれ」
ニューギニアで共に戦った鬼頭千万太の最後の言葉を胸に、鬼頭家が網元として君臨する獄門島に降り立った金田一耕助。
耕助がそこで見たのは、雪枝・月代・花子の三姉妹がいる本家と、志保・儀兵衛が取り仕切る分家とが反目し合う鬼頭家一族の姿だった。
やがて千万太の予言どおりに、血も凍る殺人事件が発生…。
瀬戸内海の孤島に渦巻く、世にもおぞましい計略に耕助は気づくことができるのか?
著者自身『本陣』と並ぶ傑作と自負した、横溝ミステリーの最高峰。

「BOOKデータベース」 より

登場人物
金田一耕助……探偵
磯川常次郎
……警部
清水
……獄門島に駐在中の巡査

本鬼頭家
嘉右衛門……先代当主で故人
お勝……嘉右衛門の妾
与三松……現当主
千万太……与三松の息子で故人、金田一の戦友
花子……与三松の長女
雪枝……与三松の次女
月代……与三松の三女

本鬼頭分家

……千万太から見ていとこ
早苗……一の妹

分鬼頭家
儀兵衛……当主
志保……儀兵衛の妻
鵜飼章三……居候

島民
了然……寺の住職
了沢……寺の典座
荒木真喜平……村長
村瀬幸庵……医者
清公……床屋の店主 
竹蔵…… 潮つくりの名人

【獄門島】はどのような人にオススメ?

・見立て殺人ミステリーの名作を読みたい人
・戦後直後という時代設定ならではなストーリーに関心がある人
・俳句の知識がある人

本書の謎に絡んでくる話ではないものの、前作「本陣殺人事件」の話題が度々出てくるため、先にそちらを読んでから本書を読むのがオススメです。

せきゆら
せきゆら

順番が分かっていないまま、先に「獄門島」を読んでしまった私は後悔しました。

【獄門島】の感想(以下ネタバレ注意)

犯人や動機等のネタバレが含まれております。
閲覧の際はご注意ください。

見立て殺人ミステリーの名作

今更ではあるのですが、本書は松尾芭蕉とその弟子・宝井其角の俳句に見立てた殺人が行われる事で有名です。
しかしそこまで具体的な内容を事前に入れていなかった私は、屏風のくだりが分からないまま釣り鐘が使われていた事、更に被害者の母親が役者で「道成寺の鐘入り」が得意だった事から、そちらに見立てた殺人だと素直に信じてしまいました。
俳句の知識がある人なら現場状況で何の俳句なのか推理する楽しみがありそうです。

せきゆら
せきゆら

志保も言っていましたが、清姫(雪枝)が鐘の中で燃やされもしないまま殺されているのは、確かに見立てとしておかしかったですね。

戦後直後の状況を推理に組み込んだミステリー

本書は終戦から、わずか1年後の出来事です。
戦時中は金田一も応召され、戦地へ赴いていました。
そこで出会った戦友・千万太からの頼みで獄門島を訪れる事となったのが、この作品の始まりです。
この作品自体は勿論フィクションなのですが「復員兵(軍務を解かれ故郷へと戻る兵士の事)」である兄・一の帰りを待つ早苗が実在の番組「復員だより」のラジオで兄の消息をチェックしている場面があったりと、戦後直後の混乱について緻密に描かれているのも本書の大きな特徴の1つです。
しかもその「復員兵」という存在がミスリードやどんでん返しの展開を引き起こして来るところが、この時代背景ならではの要素で面白いと思いました。

せきゆら
せきゆら

急に復員だよりを聞かなくなった早苗を見て「絶対アイツは一だ!」と私もまんまと引っかかりました。

事件を阻止する気がない探偵?

推理小説は事件が起こらなければ何も始まらないので「事件を解決は出来ても、阻止は出来ない名探偵」にツッコミを入れるのは野暮だと分かってはいるのですが、本書に限っては読みながらつい「本当に事件を阻止する気があるのか?!」と心の中で叫んでしまいました。
他の作品でここまで気にかかる事はなかったので、何故そう思ったのか考えてみると色々と理由が出てきました。

・金田一は最初から犠牲になる人物を全員知っていたにも関わらず、すべて阻止出来なかったから。

・「あとから思えば、それこそ生きている月代を見た最後であった」など、後の展開を匂わせる言葉が多用されているため、それを知らされた上で何も知らない金田一の動向を見守らないといけないから。


・千万太の遺言や、金田一が探偵である事を伏せる必要性がよく分からなかったから。(島民達全員に伝えていれば、互いを監視しあってくれたかもしれない。)


・金田一が犯人と疑われて留置所に入れられた際、このまま真犯人が残りの妹達を狙う可能性をまったく考えないまま爆睡していたから。


・終盤、犯人の1人である了然が「フェアプレイ精神」というどこか余裕を感じさせる理由から、わざと金田一に推理のヒントを与えていたという事実が発覚した事で、それでも事件を阻止できなかった金田一の株が余計に下げられてしまったから。

留置所のくだりは、いちいち金田一が島民達に疑われる描写を入れても意味がないので無実を証明するため、推理のヒントを与えるくだりは犯人に大物感を出すためにこうなったのではないかと思います。
しかしそのしわ寄せがすべて金田一にいってしまった事で「事件をまったく阻止する気が無い探偵」に見えてしまったのではないかと感じました。

最後に(犯人や動機に対する雑記)

人を木に逆さ吊りにしたり、警察とピストルで撃ち合う海賊をどさくさに紛れて撲殺したりと、女性の腕力では難しそうな犯行だとは思っていましたが、まさかあの落ち着き払った印象の強い了然が、腕力ですべて解決してくるタイプの過激派和尚だったとは予想だにしませんでした。
それでいて探偵である金田一に対しては、唐突にスポーツマンシップのような姿勢を見せつけてくるので、意図せずユニークな人物として仕上がっていたように思えます。
彼がやった事は勿論肯定しませんが、キャラクターとしては結構好きでした。

せきゆら
せきゆら

対して権力者達から「殺人」と「探偵へのヒント」を半ば強制された村長と医者は、許されはしませんがやや気の毒でした。

そしてそんな和尚すらも操った黒幕・嘉右衛門の動機は「分家の一に跡を継がせるのに、邪魔な本家の三人娘を消す」というものでした。
しかし三人娘は色恋沙汰に夢中で、家の跡を継ぐ意思は皆無だったように見えます。
むしろ面倒くさがりそうです。
そもそも「千万太も一も死んだら、月代に養子を取らせて跡を継がせるつもりだった」という時点で、彼女達は跡継ぎ候補としてはなから選択肢にすら入れられていないように見えます。
この様子だといくら分家とはいえ、三姉妹を生かしたまま一に跡を継がせても、彼女達は何も言わないのではないかと思ってしまいました。
そう考えるとおそらく跡継ぎ問題という動機は、嘉右衛門が個人的に憎んでいる「三人娘の母・お小夜への復讐」という本当の動機をそれらしい理由で正当化するため、そして和尚達を殺人に踏み切らせる大義名分として利用したに過ぎなかったように思います。

せきゆら
せきゆら

一の死によって、和尚達の中では無意味な殺人をしてしまった事になりましたが、嘉右衛門だけは早苗が婿を取る事で家を存続させようとしているのもあり、あの世で大喜びしていそうなのが複雑なところです。

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