この記事では『戯史三國志 我が糸は誰を操る(吉川永青)』の内容や感想について紹介しています。
うっかり間違えて二作目から読み始めてしまった前回ですが、今回はちゃんと一作目です。
戯史三國志の感想記事はコチラから↓
1.戯史三國志 我が糸は誰を操る(当記事)
2.戯史三國志 我が槍は覇道の翼
3.戯史三國志 我が土は何を育む
【戯史三國志 我が糸は誰を操る】のあらすじ・登場人物
董卓に想い人を奪われた若き日の陳宮。
「BOOKデータベース」 より
己の無力に打ちひしがれていた時「俺の臣になれ」と言う男・曹操が現れ、彼の人生を変えた。
名将に重用されながら、呂布に寝返った謀将。
その愚行の裏には知られざる熱い友情と真心の物語があった。
まったく新しい三國志、第一弾。
「小説現代長編新人賞」奨励賞受賞作。
登場人物
数が多すぎるため、中心人物のみ掲載。
(三国志演義の流れに沿っているため「黄巾の乱〜下邳の戦い」までの武将は大体登場します)
陳宮……主人公。
張鈴……酒家の娘。陳宮と想いを寄せ合っていた。
曹豹……陳宮に見出され、配下となった兵士。
曹操……陳宮の主君であり親友。
夏侯惇・夏侯淵・許褚……曹操配下の猛将達。
荀彧・程昱・郭嘉……曹操配下の軍師達。
董卓……絶大な武力を誇る巨将。
李儒……董卓の参謀。
呂布……単騎で地獄を生み出す猛将。
高順・張遼……呂布配下。
劉備……得体の知れぬ渡世人。
関羽・張飛……劉備の義弟。
【戯史三國志 我が糸は誰を操る】はどのような人にオススメ?
・曹魏が好きな人
・知略で立ち回る軍師の視点から三國志を見てみたい人
・オリジナル要素を盛り込んだ三國志に興味がある人
恋愛・友情要素を多めに盛り込んだ事で、三國志を知らない人でも読みやすい作品となっています。
一つ目の「曹魏が好きな人」の部分は、本当のところ主人公である「陳宮が好きな人」にしたかったのですが、本書の陳宮は二作目の主人公である程普以上にオリジナル要素が多く、あくまで曹魏を題材にした作品でもある事から「呂布軍の軍師として陳宮が好き」という人にはオススメしづらい内容かと思い、やめました。
【戯史三國志 我が糸は誰を操る】の感想
意外性のある人選
本書の主役を務める陳宮は魏の創始者・曹操に仕えた後、呂布に寝返った事で有名な軍師です。
曹魏を題材にした作品で、陳宮を主人公に選ぶとは驚きです。
確かに二作目の主人公である程普同様、陳宮も実像がハッキリしないイメージが強いため、作者の創作を織り交ぜやすい人物だったのかもしれません。
知勇兼備の将として軍事関係の活躍シーンが多めだった程普に対し、今作の陳宮は董卓の参謀・李儒との水面下での対決等、軍師らしい活躍が盛り沢山となっております。
同じ三國志でも役割が異なる人物達を主人公にする事で、作品ごとに全く異なる戦いが見られるのは嬉しいですね。
しかしその反面、曹魏も主役にしている事から曹操が魅力的に描かれているのに比べ、呂布は主君としては浅慮すぎる上、三國志最強と謳われた武勇も今作では「董卓を討った瞬間に失われてしまった」という不遇な設定が追加されています。
呂布が敗北した理由の解釈としてこの設定は面白いのですが、これにより呂布軍視点となる後半は陳宮が凋落の一途を辿るだけの消化試合感が否めず、やや盛り上がりに欠けていたのが残念でした。
(高順や張遼の善戦はテンションが上がりましたが)
とはいえ呂布と陳宮で熱い展開を作ると、本書最大の見せ場であろう「曹操と陳宮の友情」が薄味になってしまうため、陳宮と魏を両方主役にした時点でこの難点は避けようがなかったのかもしれません。
他の戯史三國志シリーズと話が連動している
戯史三國志シリーズは陳宮(魏)・程普(呉)・廖淳(蜀)を主役に据えた三部作となっております。
本書はまだ一作目ですが、元々三部作にする予定だったのか主人公同士(陳宮・程普・廖淳)の邂逅シーンがあったり、同じ場面で何を思っていたのかそれぞれの視点で語っていたりと作品間で話が連動しています。
まだ未読ですが、三作目も廖淳視点で話が連動していると思われますので、間を置かずに三作一気に読んだ方が本シリーズを楽しめそうだと思いました。
程普はともかく、さすがに廖淳と陳宮は年代的に絡めないだろうと思いながら読んでいたら、まさかのタイミングで邂逅して驚きましたね!
ちなみに主人公以外の人物に関しては、二作目で全く心の内を読ませなかった劉備の本音が、今作で少しだけ明かされていたのが印象的でした。
対して孫堅は出番が殆ど無かったため、彼の事は二作目で知れという事なのでしょう。
(二作目の孫堅は滅茶苦茶格好良いです)
呂布に関しては先に二作目で恐ろしい錯乱ぶりを見せられましたが、今作でその理由が明かされスッキリしました。
「殺意を感じ取ると意識が飛び、敵味方問わず屠りだす」というのは大分尖った設定ですが呂布なら有り得そう……と思わされるのが不思議です。
新解釈・美女連環の計
作者の創作設定が魅力の本書ですが、中でも特に面白いと思ったのはヒロイン・張鈴の設定です。
彼女は三国志演義に登場する絶世の美女・貂蝉とそのモデルとなった正史三國志の「呂布と密通していた董卓の侍女」の要素を両方含めた人物となっています。
張鈴(チョウリン)と貂蝉(チョウセン)。
名前も一文字違いです。
義父・王允の策により董卓の元へ送られた貂蝉は、彼女の美貌に魅せられた董卓と呂布の仲を引き裂く事に成功した人物として有名です。
一方、本書の張鈴は「董卓軍に誘拐されてしまった酒屋の娘」という設定です。
そのまま董卓の侍女として慰み者にされた結果、両思いである陳宮に嫁ぐ夢は潰え、彼女の父親も絶望のあまり自ら命を絶ってしまいました。
張鈴も精神的に追い込まれていましたが、この日々から何とか脱却するために呂布と関係を持ち、董卓と仲違いさせようと試みます。
しかし董卓を何よりも恐れる呂布は、仲違いを起こしませんでした。
打つ手なしかと諦めかける張鈴。
そこへ董卓軍に偽りの投降をした陳宮がやってきます。
張鈴の狙いを知らない陳宮は、この関係にはらわたが煮え繰り返りつつも「呂布と張鈴が密通している」と董卓の耳に入るよう噂を流し、怯える呂布に董卓を討つよう唆します。
王允はこの過程で陳宮の協力者として登場しました。
美女連環の計を陳宮が利用するというパターンは、斬新で面白かったです。
呂布と張鈴の密通が発覚した所で「まさか彼女が貂蝉ポジション?!」と驚かされつつも、演義とは異なる展開が来た事でここからどのように董卓を倒すのか、先が読めないワクワク感を味わえました。
そして董卓殺害後、すれ違いにより起こってしまった悲劇。
張鈴に償う方法を考えた結果、曹操と分かたれてしまう道。
呂布を上手く操る事が出来たという成功体験から、生まれてしまった誤算。
この美女連環の計は陳宮の人生を大きく変えるきっかけにもなってしまうという、話の発展のさせ方も素晴らしかったです。
最後に
史実が史実なので、ハッピーエンドに近かった程普と比べるとやや悲しい終わり方となっています。
とはいえ最期は陳宮なりに納得のいく結論を出し、親友・曹操に惜しまれながら遺言を聞き届けられたため、寂しさはあるものの同時にスッキリともさせられる読後感でした。