【感想】「奇岩館の殺人(高野結史〈著〉,ぬごですが。〈イラスト〉)」脇役がリアル・マーダー・ミステリーからの生還に挑む

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ミステリー

この記事では『奇岩館の殺人(高野結史)』のあらすじや感想を紹介していきます。

せきゆら
せきゆら

つい最近見かけたばかりの作品でしたが『◯◯館の殺人』系統の誘惑に勝てず、購入してしまいました。

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【奇岩館の殺人】のあらすじ・登場人物

孤島に立ついびつな形状の洋館・奇岩館に連れてこられた日雇い労働者の青年・佐藤。
到着後、ミステリーの古典になぞらえた猟奇殺人が次々と起こる。
それは「探偵」役のために催された、実際に殺人が行われる推理ゲームだった。
佐藤は自分が殺される前に「探偵」の正体を突き止め、ゲームを終わらせようと奔走するが……。
密室、見立て殺人、クローズド・サークルーーミステリーの常識が覆る!

本の裏表紙より

登場人物(主要人物は色付き)
佐藤……主人公。徳永の行方を探るために奇岩館のバイトへ応募する。
徳永…… 佐藤の日雇い仲間。半年前に失踪。 

山根……大学のミステリー研究会に所属する学生。
榊……大学のミステリー研究会に所属する学生。

雫久……『奇岩館』の主・御影堂治定の娘。大学のミステリー研究会に所属する学生。
小遠間……『奇岩館』の執事。
香坂……『奇岩館』の使用人。 
真鍋……『奇岩館』のシェフ。
白井……『奇岩館』の主治医。 

天河怜太……乗って来た船が故障し『奇岩館』に避難してきた。 
蒲生日々子……猟奇殺人の研究者。乗って来た船が故障し『奇岩館』に避難してきた。 
船長……操縦していた船が故障し『奇岩館』に避難してきた。 

九条雅……探偵遊戯の監督役。 
カー……探偵遊戯のシナリオライター。
盤崎……探偵遊戯の技術スタッフ。

【奇岩館の殺人】はどのような人にオススメ?

・倒叙ミステリーが好きな人
・デスゲームに近い作品が好きな人
・斬新な構造のストーリーを楽しみたい人

本書は実際に人が殺害されてしまう「探偵遊戯」という推理ゲームに、アルバイトとして参加した佐藤が「探偵役」は誰なのか、更にその裏に隠された真実を追求するストーリーです。
そのため実際に起こった犯行に焦点を当てておらず、事件と同時進行で犯人とトリックが読み手に明かされる倒叙ミステリーとなっております。

また本文において「不謹慎なエンターテイメント」と書かれている通り、一貫して殺人という行為を道楽として扱っているため、現実味のあるミステリーを求めている人にはオススメしづらいです。

【奇岩館の殺人】の感想(ネタバレ注意!)

読了された方向けの内容となっておりますので、未読の方はご注意ください。

奇妙な2人の視点

本書は探偵遊戯における脇役「佐藤」と、その運営であり現場スタッフの「小遠間」の視点を交互に入れ替えながら話を同時進行させていきます。

先述の通り探偵遊戯において探偵役と呼ばれている人物は、このゲームを開催させた黒幕(犯人)ともいえるため、作品全体としては実質佐藤が探偵役ポジションです。

佐藤視点の目的は下記の2つです。

・以前アルバイトで探偵遊戯に参加し行方不明となった友人・徳永の所在。
・自身が生き残る

→佐藤自身が被害者役として殺害される前に、探偵役を探しだしゲームを終わらせるよう説得、もしくは事件解決のヒントを与える事でゲームを早く終わらせる。

一方、小遠間視点ではアクシデントに振り回されながらも、クライアントを満足させるために何とか探偵遊戯を成功させようと奮闘する様子が描かれます。
金持ちの道楽のためにリアル・マーダー・ミステリーをおこなう倫理観の欠片も無い運営サイドでありながら、多方面から振り回される中間管理職として胃を痛め続ける小遠間の姿は、危うく同情してしまいそうになるのが不思議な所です。

小遠間視点は犯人役どころか殺害シーンまで明らかとなるため、探偵遊戯の中で起きた事件は推理する必要がありません。

本書では主に徳永の行方を突き止めて探偵遊戯から生還したい佐藤と、探偵遊戯を無事成功させたい小遠間の水面下での戦いが描かれます。

悪辣な運営に立ち向かう正義の主人公というストーリーではなく、運営側である小遠間もまるで社会人のような苦労を抱えながら必死で仕事を遂行していたという構図は、斬新かつ妙な親近感が湧いてきて面白かったです。

続編を期待したいラスト

最終的に小遠間に捕まってしまった佐藤は、探偵遊戯のシナリオライターとして自身を売り込み、何とか生き残ることに成功します。
一見すると主人公まで悪趣味な運営サイドに堕ちてしまうバッドエンドです。

しかし当初佐藤の存在を疎んでいた小遠間が、激しい攻防の末に彼へ興味を抱き、その実力とミステリーに対する熱意を認めていくという妙に熱い展開であった事から、続編でこのチームによる探偵遊戯を見てみたくなってしまいました。
今回登場人物の大半は本名すら明らかになっていないので、まだまだ掘り下げられる所は多そうですし、佐藤もまだ真っ当な倫理観や友人をゲームで殺された怒り自体は消えてなさそうなので、ここからどう立ち回っていくのか気になります。

せきゆら
せきゆら

健康診断を怠り、いよいよストレスの限界で倒れた小遠間は続編に出られるのでしょうか。

読み手や探偵への皮肉が効いている

多くのミステリーに触れてこられた皆様へ「挑戦状」を叩きつけることは甚だ恥ずかしくもあり、恐悦至極でもございますが、此方の自信と覚悟を持って改めて挑戦させていただきます。

小説冒頭より

本書は作者から読み手への挑戦状が随所に挟まれている……かと思いきや、これは探偵遊戯を映像で観覧していた富豪達へのアナウンスというオチでした。
このミスリードは、悪趣味極まりないショーをミステリー小説として楽しむ読み手(自分)も富豪達と同じであると揶揄しているように感じました。

また探偵遊戯内における探偵役も、小遠間の視点を通し「実際に人が死ぬ推理ゲームのスリルと非日常を楽しみながら、自身の推理に酔いしれる富豪」として描かれています。
本来の探偵役である佐藤も、ミステリーが好きだからこそ「劇的な瞬間を味わいたい」という理由で運営サイドに回る結末となったのを見るに、ミステリーを愛する探偵にありがちな倫理観の欠如を皮肉っていたように見えます。

せきゆら
せきゆら

皮肉っていながらも、その在り方自体は小遠間を通じて肯定させているのが面白い所です。

参加者達の正体

探偵遊戯の参加者達の正体は下記の通りです。

佐藤……アルバイト。第一の被害者役になる予定だったが、急遽天河が第一の被害者になったため脇役にされる。
徳永…… 以前の探偵遊戯で被害者として殺害されていた。

山根……第二の被害者役。
榊……運営スタッフ。天河死亡により代理で探偵役となる。

雫久……非正規雇用のスタッフ。これまでは探偵役とロマンスを起こすヒロイン役だったが、今回第三の被害者として殺害される。
小遠間……運営スタッフ。
香坂……運営スタッフ。
真鍋……運営スタッフ。
白井……アルバイト。犯人役として天河を殺害したが、その際に抵抗にされ死亡。

 
天河怜太……探偵役でありクライアント。度が過ぎた素行の悪さを見かねた父親により、第一の被害者として始末される。
蒲生日々子……運営スタッフ。ヒント役。
船長……天河の父でありクライアント。天河の始末を運営に依頼。

運営的に今後も探偵遊戯に金を出すであろう天河を殺害して良かったのか、という疑問はありましたが船長が父親というオチは予想外で面白かったです。

最後に(表紙について)

主人公が男性であった事から、本の表紙に描かれた少女は何者で、どのような役割を持っているのか気になりながら読んでいました。

少なくとも日々子では無さそうなので、彼女は雫久だったのでしょう。
最初にイラストを見た時は「愛らしいのにどこか影がある少女」という印象を受けていましたが、読後の今見てみると、首が取れた人形で彼女の末路を示唆していた事が分かりゾッとさせられます。

せきゆら
せきゆら

初見と読後で印象が変わる表紙も好きでした。

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