【感想】「容疑者Xの献身(東野圭吾)」映画化されたガリレオシリーズの名作

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ミステリー

この記事は『容疑者Xの献身』についてあらすじ・感想等を紹介しています。

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【容疑者Xの献身】のあらすじ

天才数学者でありながら不遇な日日を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。
彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うため完全犯罪を企てる。
だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。
ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。

「BOOKデータベース」 より

花岡靖子は8年前、赤坂でホステスをしていた時の客である富樫慎二と再婚しました。
はじめは順調な結婚生活でしたが、富樫が勤め先の会社で長年に亘る使い込みが発覚し、仕事をクビになってしまいます。

これを機に富樫は荒れました。
花岡へ暴力を振るい、彼女が稼いできた金も無理やり奪い取るようになります。

弁護士の働きかけで何とか離婚は出来たものの、その後も富樫は花岡につきまとい復縁と金銭を迫り続けました。
それでも職場と住所を変え、しばらく富樫から逃げる事に成功していましたが、ついに現在花岡が働いている『べんてん亭』と自宅が突き止められてしまい、富樫のつきまといは再開します。

せきゆら
せきゆら

これに耐えられなくなった花岡の娘・美里はついに後ろから富樫に花瓶を振り上げ……。

【容疑者Xの献身】はどのような人にオススメ?

・泣けるミステリーが読みたい人
・倒叙ミステリーが好きな人
・数学が好きな人

本書は石神の愛する人への献身ぶりだけでなく石神と草薙、両方と友人である湯川の葛藤などが丁寧に描写されているため、読み手が感情移入して読みやすい話になっています。

更に事件と関係ない話から重要なヒントまで数学になぞらえて伝えてくるため、数学好きの人はより話が頭に入ってきやすいと思います。

【容疑者Xの献身】の感想

ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。

倒叙ミステリーで惑わされる

倒叙ミステリーとは、物語序盤から犯人とその犯行過程の一部を明かした状態で話が進むミステリー小説における形式の1つだそうです。
中でも本書は倒叙ミステリーとして有名な作品で、冒頭からいきなり元夫に追い込まれた花岡母娘による犯行が描かれます。
やがて彼女達の犯行を見抜いた石神も合流し、隠蔽工作を行う事になりました。

せきゆら
せきゆら

以降は刑事である草薙(ワトソン役)を加えた花岡・石神の3人の視点が交互に切り替わりながら物語が進みます。

このような経緯により、読み始めてから中盤ぐらいまでは、ここまで真相を明かされた状態で何を推理すれば良いのか、全く検討がつきませんでした。

途中、石神が数学問題の作り方について、
「思い込みによる盲点をついているだけ。
幾何の問題に見せかけて、実は関数の問題であるとか」
と語っていた所で直感的に趣旨は理解したものの、何を勘違いさせられているのか全く分からず、最後はスッカリ騙されてしまいました。
鋭い人なら顔が無い遺体や、やたら登場するホームレス達の描写からあの答えを導けたのでしょうか。

何故学校で数学を学ぶ必要があるのか

事件とは関係の無い部分なのですが、個人的に印象に残ったのは、高校教師である石神が森岡という生徒から「数学なんて勉強する必要があるのか」と聞かれた場面です。
彼は森岡がバイク好きだと知っていたため、オートレースを例に出し
「レーサーをバックアップするスタッフは、どこで加速すれば勝利出来るのか、戦略を練るために数学を使っている。
少なくともそれを応用したコンピューターソフトを使っているのは事実」
と説明します。
それならそのソフトを作る人間だけが数学をやれば良いと反論する森岡。
これに対し石神はこう続けます。

森岡じゃなくても、ここにいる誰かがなるかもしれない。
その誰かのために数学という授業はある。
いっておくが、俺が君たちに教えているのは、数学というほんの入り口にすぎない。それがどこにあるかわからないんじゃ、中に入ることもできないからな。
もちろん、嫌な者は中に入らなくていい。
俺が試験をするのは、入り口の場所ぐらいはわかったかどうかを確認したいからだ。

石神哲哉

現実でも「この教科を勉強する意味があるのか」と疑問を投げかける学生はよく見ます。
この疑問に対し「将来役に立つから」という、曖昧すぎる答えは持っていたものの、具体的にどう役に立つのかを石神に言語化された事で、ようやくこの答えに自分でも納得がいくようになりました。

せきゆら
せきゆら

数学に限らず、他の教科にも当てはまる答えではないでしょうか。

石神の魅力

湯川に「天才」と認められた程の才を持ちながらも、その頭脳を花岡母娘への献身に使った石神。
人間観察も徹底的に行っていたにも関わらず、彼女達が石神の献身を受けとめられない事までは見抜けませんでした。
これに関しては、湯川が真相すべてを花岡に打ち明けた件だけでなく、石神の自己評価があまりにも低すぎたのが大きな誤算だったように思えます。

そもそも石神の望む通り、花岡母娘がこのまま彼の事を忘れて幸せになろうとするような人間だったとしたら、彼自身あそこまで惹かれていなかったのではないでしょうか。

天才でありながら、それすら自覚出来ていない石神の不器用さは、危うすぎると同時に彼の魅力にもなっていたようにも思えます。

せきゆら
せきゆら

もっと早く湯川に再会出来ていれば、また別の道があったのでしょうか。

最後に(気になった点など)

「被害者は会社の金を横領した過去があるにも関わらず、何故会社の人間とのトラブルが疑われないのか」
「友人相手とはいえ、警察が民間人の住所を無断で教えて良いのか」
「図書館が利用者の閲覧していた資料について、本人の許可なく警察に教えて良いのか」

など、いくつか細かい部分は気になりましたが、作品としては十分楽しめました。

花岡の「あたしも償います」という言葉からして、まだ美里を庇っているようですが、意識が戻った美里もこの後自首してしまうのでしょうね……。

せきゆら
せきゆら

誰も幸せにならない結末であるにも関わらず、イヤミスともまた異なる悲しい読後感でした。

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