【感想・ネタバレ】今更ながら初めて読んでみた「名探偵に薔薇を(城平京)」

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ミステリー

この記事では「名探偵に薔薇を(城平京)」のあらすじや感想を紹介していきます。

「僧正殺人事件」や「獄門島」が面白かったので、同じく見立て殺人を扱った作品を調べ、本書に辿り着いたのですが……。
まさかの展開でした。

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【名探偵に薔薇を】のあらすじ・登場人物

怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。
その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。
やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。
不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に?
第八回鮎川哲也賞最終候補作、文庫オリジナル刊行。

amazonの商品紹介より

登場人物(一部のみ)
瀬川みゆき……名探偵
三橋荘一郎……瀬川の友人
田畑……刑事

藤田克人……リース出版の社長
藤田恵子……克人の妻
藤田鈴花……克人の娘
片桐房枝……藤田家の家政婦

【名探偵に薔薇を】はどのような人にオススメ?

・探偵自身に焦点を当てたストーリーが読みたい人 
・人間ドラマの要素が強いミステリーが読みたい人 
・特殊設定があるミステリーが読みたい人 

※前半のみグロテスクな描写があるため注意
 (後半部分こそが本書の魅力なので、何とか乗り切って欲しいです!)

【名探偵に薔薇を】の感想(以下ネタバレ注意)

ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。

特殊設定「小人地獄」

本書において重要な存在となるのが毒薬「小人地獄」。
怪文書『メルヘン小人地獄』の元となった薬でもあります。
材料はなんと腐敗した胎児である事から、そのような名前がつけられたようです。

せきゆら
せきゆら

芸術として作られた毒薬らしいですが、地獄である自覚はあったのですね……。

小人地獄は適切な量であれば無味で、飲んだ人間は心不全と同じ症状で死亡します。
何より死後、解剖しても小人地獄が使用された痕跡が見つけられないため、子供でも完全犯罪が出来てしまうという恐ろしい毒薬です。
その反面、使用した量が多すぎると、強烈な苦味で相手が飲み込めずに吐き出してしまうという欠点もあります。

せきゆら
せきゆら

欠点を差し引いても、ミステリーにあるまじき万能さです。

この毒薬を使われたら、推理で追い詰めても証拠が出てこず、結局犯人の勝ちになってしまうのではないか。
はじめはそんな心配もしました。
しかし今回起こる事件は凶器を使った殺人だったり、小人地獄を使用したものの量が多すぎて無味ではなくなっていたりと、ちゃんと殺人の痕跡があるため安心して読む事が出来ます。

せきゆら
せきゆら

主にアリバイや手口の違和感から推理していくことが多いです。

意外な構成が面白い

序盤から「メルヘン小人地獄」という、不気味な童話に見立てた殺人事件が進行していく本書。
しかし100ページ以上読んでも探偵が登場しないまま、先に犯人が直接名乗り出てくるという衝撃の展開が待ち受けています。
その後ようやく名探偵・瀬川みゆきが登場するのですが、登場するやいなや、すぐさま真相を暴いてしまいます。

せきゆら
せきゆら

これにて事件は解決され、そのまま第1部「メルヘン小人地獄」は終了してしまいました。

そもそも長編ミステリーだと思い込んでいたのもあり、この奇妙な構成にはかなり戸惑いました。
犯人も登場人物達から疑われていた人物そのままで、ここから何を始める気なのかと。

しかし登場人物達の2年後を描いた第2部「毒杯パズル」が始まると、第1部の存在そのものがこの「毒杯パズル」へ繋げるための序章に過ぎなかった事が判明します。

せきゆら
せきゆら

私のように見立て殺人の名作と聞いて飛びついた人間は、良い意味で騙されました。

童話を元にした第1部の派手な連続殺人事件に対し、第2部は1件の毒殺事件だけで話が展開されていく上、こちらも動機はともかく、何となく犯人には察しがつきます。
しかしそれを承知の上で、展開を二転三転させてくるため、分かっていても惹き込まれるのが面白いところでした。

せきゆら
せきゆら

それはそれとして「メルヘン小人地獄」の不気味さも良かったので、序章で処理するには惜しい存在でした。

名探偵の過去に焦点を当てた人間ドラマ

第1部では暗い過去を匂わせつつも登場早々に謎を解き、その名探偵ぶりを見せつけてきた瀬川。
しかし第2部の事件は彼女を「名探偵」にしてしまった過去を思い起こさせる要因・鈴花によって、真相へ迫れば迫るほど瀬川が過去に経験した苦悩に読み手も触れていく事になります。
そのためミステリーではあるものの、それ以上に人間ドラマの要素が強い作品だと思いました。

メルヘン小人地獄事件を解いた時の名探偵らしい姿からは想像出来ない、推理ミスを連発する瀬川に不自然さを感じていましたが、それすらもあの絶望への伏線だったとは。
名探偵が突如ポンコツ化した理由に、これほど説得力があったのは初めてです。
仮にあの真実に気づく事が出来ても、瀬川の過去を考えるとあまりにも残酷すぎる話な上、勘違いだったらそれはそれで恥ずかしいだけなので、瀬川自身の口からは決して指摘出来ないでしょう。

真実を知り、うちのめされた瀬川のその後が気になるものの、それと同時に本書の続編は出ていないと知り、なんとなく納得してしまった部分もあります。

せきゆら
せきゆら

あの絶望的なラストからどう続けろというんだ……とは正直思いました。

最後に

読み終えた後、本編にまったく出てこなかった「薔薇」がどういう意味だったのか考えさせられました。
なんとなく犯人の動機を指しているように思えましたが、あの苦すぎるラストを見ると、純粋にそう解釈しづらい気もします。

せきゆら
せきゆら

「薔薇」というより「絶望」を与えている気がするのですが、薔薇にはそういった意味があったりするのでしょうか。

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