【感想・ネタバレ】「首挽村の殺人(大村友貴美)」巨大熊と連続殺人犯が同時に迫ってくる恐怖

※アフィリエイト広告を利用しています

 

ミステリー

この記事では「首挽村の殺人(大村友貴美)」のあらすじや感想を紹介していきます。

ちょうど「獄門島(横溝正史)」を読んだばかりというタイミングだったのもあり「横溝正史ミステリ大賞」に輝いたという本書の存在が気になってしまい、読んでみました。

スポンサーリンク

【首挽村の殺人】のあらすじ・登場人物

岩手県にある鷲尻村。
長く無医村状態が続いた当地に、待望の医師が赴任した。
その直後、彼は何者かに襲われ帰らぬ人となった。
巨熊に襲われたと噂される彼の代わりに新たに赴任した滝本。
だが、着任早々、彼は連続殺人事件に遭遇することになる。
先祖の祟りに縛られたこの地で、彼らを襲うのは熊なのか、それとも—?
横溝正史ミステリ大賞を受賞し、21世紀の横溝正史が誕生と各方面から絶賛されたデビュー作、待望の文庫化。

「BOOKデータベース」 より

登場人物(本書の登場人物表より引用)
滝本志門……村立鷲尻診療所の医師
桜田彩……大学院生
桜田雄鶴……彩の祖父。マタギのシカリ(頭目)
帷子佐枝……彩の友人。村立鷲尻診療所看護師
帷子功二……佐枝の父。鷲尻村村長
帷子宏……佐枝の従兄
保呂岩謙称……霊安寺の住職
沢下実……村議会議長
桜田梅生……彩のおじ。商工会会長
田上登美子……語り部。元小学校教師
杉総一朗……滝本志門の同僚医師
滝本瑠華……滝本志門の妹

藤田警部補……岩手県警北上西署刑事課
白金巡査部長……藤田の部下
渡辺巡査……鷲尻駐在所

【首挽村の殺人】はどのような人にオススメ?

・社会派ミステリーが好きな人々
・熊害やマタギ文化に関心がある人
・見立て殺人モノのミステリーを読みたい人

【首挽村の殺人】の感想(以下ネタバレ注意)

犯人や動機等のネタバレが含まれております。
閲覧の際はご注意ください。

様々な題材がてんこもり

本書の舞台となる鷲尻村では、巨大な赤熊(ツキノワグマでありながらヒグマ並の大きさをしている熊)による熊害と、古くから伝わる鷲尻村の因習に見立てた連続殺人事件が同時進行します。
殺人犯&人を襲うタイプの熊が偶然同じ場所に現れ、殺人を繰り返すとは最悪な偶然にも程がありすぎますね。
しかも「共闘しているのか?」と疑いたくなるほどの確率で、熊と殺人犯同士は出くわさないので、作中における犠牲者は増える一方でした。
更に殺人犯の方はただの勘違いで殺人をする時もあるので、若干通り魔じみた存在となっているのもタチが悪いです。

せきゆら
せきゆら

おかげでミステリー小説の中でも、非常に犠牲者が多い作品となっています。

また話の中心に来る要素ではないものの、僻地であるが故の医療体制の貧弱さ、財政の逼迫による町村合併で生じる不利益、村人達の高齢化等、1冊に様々なテーマが盛り込まれています。
そういう意味では社会派ミステリーともいえる作品かもしれません。
おどろおどろしい村の因習をじっくり描いてくるかと思っていたので、これは良い意味で予想外でした。

マタギの戦いも見どころ

様々なテーマが盛り込まれている本書ですが、その中でもマタギの頭目である桜田雄鶴を中心に描いた赤熊との戦いや、マタギ文化に関する描写は秀逸でした。
詳しい事情は分かりませんが、作者の出身地も本書の舞台と同じ岩手県だそうなので、その土地特有の熊害やマタギ文化について元々知識があったのかもしれませんね。
熊害と聞くと、三毛別羆事件等で思い知らされるヒグマの怖ろしさを連想してしまうのですが、本書を通して本州に生息するツキノワグマも、人間では到底敵わない存在である事を改めて認識させられました。

ちなみにこの赤熊が暴れ回るパート自体は本筋の事件とほとんど関係がないものの、犯人が熊の仕業に見立てた殺人は行われます。
そこでマタギの雄鶴が、現場に残った熊の足跡が日本に生息しないグリズリーの形だと見抜き、熊に見立てた人間の犯行である事を警察に証明する場面があるのですが、そこは彼のプロとしての仕事ぶりが垣間見えて良い場面でした。


しかし雄鶴はマタギとして赤熊とたびたび激闘を繰り広げながらも、最終的に多くの仲間達を殺されたまま赤熊は行方不明となり話が終わってしまいます。
明確に倒した描写はありませんが最後の雪崩以降、襲撃がなくなった事から逃走後に命が尽きたのかもしれません。
最後は雄鶴が赤熊を仕留めて決着をつける瞬間が見たかったのですが、やはり巨大な赤熊相手では雪崩ほどの威力がなければ太刀打ち出来ないという現実を突きつけられたような気がします。

せきゆら
せきゆら

雄鶴も良かったのですが、梅生も雄鶴達とはまた違う考え方を持つ人物として魅力がありました。(赤熊に襲われている人間にも弾が当たる覚悟で、発砲出来るかどうかの違い等)

犯人について

中盤まで犯人が登場しなかったのもあり、序盤は的外れな推理ばかりしながら読んでいたのですが、
終盤もまったく犯人を当てられないまま「志門が怪しい話の流れになってるけど、まさかそのままストレートで終わったりしないよな……」と心配しながら読み進めていました。
しかしそんな簡単な話で終わる訳がなく、余計な心配をだったようです。
まさか妹の瑠華の方が犯人だったとは予想だにしませんでした。

私は宏殺しどころか、沢下殺し(橋に吊るす)も女性の腕力では不可能だと思い込んでいたため、完全に瑠華は犯人候補から外してしまっていました。
やたら志門の過去が語られていたのは、彼が本書の主人公に近い人物だったのでさほどおかしな事ではないと思っていましたが、実際には「犯人の動機の話」である事を読み手に悟らせないために、志門の過去として語っていたのですね。

村の因習と聞くと「狂った村人達の手によって繰り広げられるおぞましい惨劇」を想像してしまいがちですが、あえてそのイメージを逆手に取り、
「現代人である村人達は、先祖達の古くおぞましい因習を忌避している。
そのため村人が犯人だった場合は、過去の因習を思い出させるようなやり方をしない。
だから犯人は村人達の犯行に見せかけた外部の人間」

という理屈で、あえて外部の人間を犯人にしたのは意外性があって面白かったです。

しかし外部の人間を犯人にした事によって、必然的に犯人と村人達の接点がなくなってしまった分、動機が希薄なものにならざるおえなかったのが唯一残念な所ではありました。
事件の真相に近づいた人間への「口封じ」という理由だけで、4人も殺せるのは思い切りが良すぎます。

せきゆら
せきゆら

「相手に見られた」という確信が無いまま、とにかく殺してしまう迂闊さがより動機を弱くさせていたように見えました。

最後に

動機や人物描写に不満はあったものの、これが作者のデビュー作であった事を考えると、十分クオリティーの高い作品だったと思います。

また事件の関係者達が濃すぎて、本シリーズの探偵役である藤田警部補の印象が薄いまま終わってしまったように見えたので、続編以降どのような探偵役に進化していくのか気になります。

PAGE TOP