この記事は『戦火のオートクチュール』についてあらすじ・感想などを紹介しています。
ネタバレ(主に登場人物について)が含まれておりますので、閲覧の際はご注意くたさい。
【戦火のオートクチュール】のあらすじ
祖母が遺したのは、血に染まったシャネルスーツだった。
裏表紙より
遺品の謎を解くため、フリーライターの結城真理は疎遠だった母とフランスに赴く。
祖母は第二次世界大戦中、外務省一等書記官の娘としてナチ占領下のパリにいた。
その足跡を辿ると、驚愕の事実が。歴史上のある人物を巡る謀略が浮かび上がったのだ。
約80年の時を経て、祖母が胸に秘めていた秘密が明らかに!
『マドモアゼル』(島村匠名義)改題作品
幼少時代からことあるごとに母親・智子になじられて育った結城真理。
この親子仲の険悪さから、10年ほど母と距離を置いていました。
そんなある日、真理は外務省の外郭団体である「大津真一」という人物から接触を受けます。
彼は真理の母親・智子が外務省に「久能範義」という人物の消息について問い合わせをしたと話しました。
更にこの「久能範義」という人物自体が外務省にとって機密情報だったらしく、大津はそれを嗅ぎ回る動きを見せた智子を警戒しているようです。
それでも「疎遠になった母親のやる事など知らない」というスタンスを貫こうとする真理。
しかし同じタイミングで智子の友人であり服飾専門学校に勤務する松村弘子から「智子が血痕がついたシャネルのスーツを持ち込み、調べて欲しいと依頼してきた」と明かされ……。
【戦火のオートクチュール】はどのような人にオススメ?(レビューまとめ)
読書メーターでは下記のような感想・レビューがありました。
(本文については、レビューを見た私の所感も含まれています)
・話が壮大すぎてリアリティーが無い
本書は登場人物が多い分、視点の切り替えもめまぐるしいのが特徴です。
しかし目次等を見ただけでは視点の切り替わりが分かりづらく、年代や文脈で毎回推測するしかない構成となっているため、読みづらさを感じたという意見が出たようですね。
(2つ目についてはややネタバレが含まれるため、感想で後述します。)
その一方で、肯定的な意見も紹介します。
・人間ドラマとしても楽しめる
本書はミステリーとして推理しながら読むというよりは、歴史物の人間ドラマとして純粋に楽しめるストーリーとなっていました。
こちらも後述しますが、有名な歴史上の人物も登場するため、歴史に興味が無い人でも読みやすい内容となっています。
歴史ミステリーに興味があるけど、どれから読めば良いのか分からない!という人にもオススメ出来る作品です。
【戦火のオートクチュール】の感想(ネタバレ注意)
感想を述べる上で必要なネタバレをしているため、未読の方はご注意ください。
(真相については触れていません)
3つの視点から進む物語
本書のストーリーは主に3人の女性から語られます。
結城真理
探偵役。
読み手と同じ目線から謎に迫っていく。
久能千沙
智子の母。(真理から見て祖母)
血に染まっているシャネルスーツを遺した張本人。
父・久能範義と共にパリへ来たところから、彼女の過去が語られる。
ココ・シャネル
オリジナル要素を混ぜつつ、史実の彼女に沿う話が語られる。
まさかのココ・シャネル視点まであったのは驚きでした。
各視点ごとに話が分かれているのではなく、真理達による調査の進捗に合わせて千沙とシャネルの過去が語られる形となっています。
名だたる歴史上の人物が登場
シャネルのスーツが話の中心に来ているため、ココ・シャネルがストーリーに登場した事自体にはそれほど違和感はありませんでした。
しかし祖母の過去が明かされていくにつれ、話はシャネルだけではなくあのアドルフ・ヒトラーや恋人であるエヴァ・ブラウン等にまで及んでいきます。
わざわざ外務省が大津を通し真理達を探っていたのは、ここに原因があったようですね。
しかし祖母の過去に多くの有名人が絡み、話のスケールが大きくなった事から先述のように「リアリティーがなくなった」という意見が出ていたようです。
確かに都合の良い流れであった事は否めませんが、このくだりがなければ、ここまで緊張感のある展開になっていなかったため、やはりなくてはならない要素だったとは思います。
最後の解説も必見
本書の巻末にフランス文学者・鹿島茂氏による解説があるのですが、こちらも大変興味深い内容でした。
筆者は本書のことをこのように評しています。
優れた小説というのは、「小説以前」の「仕込み」が大切であり、これがしっかりと出来ていれば、「上物」である小説は比較的容易に出来てくるものなのである。
鹿島 茂
本書はまさにこの「小説以前」の「仕込み」に力を注いだ上質なミステリーなのである。
「仕込み」を評価した筆者は、その謎の多さゆえに取り上げづらいシャネルを主題にするため、本書の作者がどのような工夫を凝らしたのか想像します。
そこから推測を立てて自身の考察を述べてくれるのですが、これが想像にしては具体的な内容で、とても面白い話でした。
番号で順序立てた分かりやすい説明なので、普段巻末の解説を読まないという人にも是非読んでいただきたいです。
本書の作者にこの考察がどこまで当たっているのか、是非答え合わせしていただきたいですね。
まとめ
シャネルのスーツを巡って様々な想いが交錯した本書。
歴史ミステリーにあまり馴染みがなかった私には新鮮な内容でした。
今後も機会があれば、また歴史ミステリーに挑戦してみたいですね。