【感想・ネタバレ】「夏期限定トロピカルパフェ事件(米澤穂信)」甘い展開の裏に隠されている真実とは

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ミステリー

この記事では『夏期限定トロピカルパフェ事件(米澤穂信)』のあらすじや感想を紹介していきます。

前作同様、日常の謎を解き明かす短編集かと思っていましたが……見事に裏切られました。
小市民シリーズの感想記事はコチラから↓

1.春期限定いちごタルト事件
2.夏期限定トロピカルパフェ事件(当記事)
3.秋期限定栗きんとん事件
4.巴里マカロンの謎
5.冬期限定ボンボンショコラ事件

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【夏期限定トロピカルパフェ事件】のあらすじ・登場人物

小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。
賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。
諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!
そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは“小佐内スイーツセレクション・夏”!?
待望のシリーズ第二弾。

「BOOKデータベース」 より

登場人物(主要人物のみ) 

小鳩 常悟朗……船戸高校2年生。 
小佐内 ゆき……同上。引き続き小市民を目指すため、小鳩と互恵関係を継続中。 
堂島 健吾……同上。新聞部所属。小鳩とは腐れ縁の仲。

【夏期限定トロピカルパフェ事件】はどのような人にオススメ?

・前作「春期限定いちごタルト事件」を読んだ人
・夏に読みたい本を探している人
・甘さだけでなく苦味もあるストーリーを読みたい人

【夏期限定トロピカルパフェ事件】の感想

ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。

前作の構成をふまえて組み上げられた長編ミステリー

「前作の構成をふまえ、しかもそれを定型のスタイルにせず、さらに換骨奪胎してしまう(その意味では、やはり前作から読んでほしい)実験精神がここにはある」

「キャラクターをふまえた短編を、これもまたふまえて長編を組み上げる手法は、今作でより強固になっている。」

小池啓介の解説より

日常の謎を解き明かしていった前作「春期限定いちごタルト事件」同様、今作も同じ構成の短編集……に見せかけて実は章立てがなされた長編だったという罠が仕掛けられています。
個人的にはこの構成の罠が今作最大の魅力だと思いました。

「第一章 シャルロットだけはぼくのもの」までは前作と似た日常ミステリーを装っていたものの「第二章 シェイク・ハーフ」「第3章 激辛大盛」で徐々に今作で起こる事件の全貌が垣間見えてきます。
そして「第四章 おいで、キャンディーをあげる」ではついに事件が起こり、最後は長編ミステリーらしく探偵役・小鳩の推理パート「終章 スイート・メモリー」で事件の真相が明らかになるという構成です。

読む前から今回も日常モノのストーリーと決め込んでいたため、まさか同じ世界観と登場人物でここまで話のテイストが変化していくとは思いませんでした。

せきゆら
せきゆら

まさか前作の構成はこの仕掛けのために作られたものだったのでしょうか。

各章の感想

序章 まるで綿菓子のよう

縁日に行った小鳩は、偶然小佐内に出会う。
なぜか「一緒に歩こう」と誘ってくる彼女に、小鳩は何か裏があると察する。

お面に関しては偶然なのでしょうが、狐と例えられた過去が黒歴史になっている小鳩の前に、狐のお面をつけて現れる小佐内は相変わらず大胆不敵です。
謎解き要素はありませんが改めて読んでみると、この時点から既に小佐内の計画は始動していた事が分かります。

第一章 シャルロットだけはぼくのもの

〈小佐内スイーツセレクション・夏〉という名のスイーツ巡りに誘われた小鳩。
小佐内らしくないその誘いに違和感を覚えつつも、結局小鳩は付き合う事に。
しかし当日、家から離れられなくなった小佐内から「マンゴープリン2つとシャルロットのグレープフルーツのせを4つ買って家まで来て欲しい」と頼まれ……。

シャルロットを巡り小鳩が犯人役、小佐内が探偵役になった珍しい話。
シャルロットに魅了され、つい小佐内分のシャルロットにも手を出してしまった……と見せかけて、実はそれすらも謎解き対決をしたいが故の大義名分に過ぎなかった小鳩。
このあたりは大義名分があれば喜んで復讐する小佐内のやり方によく似ています。

そのため彼女もシャルロットを大義名分に復讐してくるかと思いきや、今回は小鳩をすべてのスイーツ巡りに付き合わせるだけで許してくれたので、ここでも小佐内に違和感を覚える事になります。

せきゆら
せきゆら

復讐の次に好きなスイーツを奪われたにも関わらず、やたら機嫌が良かったのも恐ろしいですね。

第二章 シェイク・ハーフ

引き続きスイーツ巡りのため、小佐内と待ち合わせをしていた小鳩はハンバーガーショップで時間を潰そうとする。
するとそこで小学校時代の同級生・堂島と出会った。
彼は「ある女子に、姉を薬物乱用グループから抜け出させて欲しい」と頼まれた事からグループを見張っていたと話す。

ようやくここで堂島が登場。
前作同様、無意識に謎を残していきます。
「堂島の性格ならどうするか」という観点から推理をした過去作に対し、今作は堂島という先入観で推理をすると分からない謎にされていたのが特徴的でした。

一方ストーリーは堂島の抱える事情と、わざわざ飲みたくもないシェイクを注文してまでハンバーガーショップにいた小佐内の存在によって、うっすら話の輪郭が見えてくる段階へ差しかかってきます。

第3章 激辛大盛

家で過ごしていた小鳩は、堂島から「タンメンを食いにいくから付き合え」という電話を受ける。
そこで堂島から「例の姉をグループを抜けるよう説得したが、全然信じてもらえなかった」と聞かされ……。

謎解き要素が無く、ただ堂島の愚痴を聞かされ続ける話。
堂島と小鳩の距離感や関係を簡潔に描いた作品でもあります。
非常に短い話なので、すぐに終わってしまい困惑させられるものの、伏線は抜かりなく張られています。

第4章 おいで、キャンディーをあげる

スイーツ巡りのため、小佐内の家で待ち合わせをした小鳩。
しかし迎えてくれた小佐内の母は「娘は外出している」という。
そこへ「小佐内を誘拐した。救いたければ身代金500万を出せ。」という電話がかかってきて事態は急変。

一方、小鳩の携帯には小佐内本人から「ごめんなさい。りんごあめ4つとカヌレを1つ買ってきてください、ごめんなさい。」という謎のメールが届いた。

ついに事件が起こる章。

シリーズ史上最もスリリングな状況なのですが、小佐内からあらかじめ小鳩に渡してあった〈小佐内スイーツセレクション・夏〉の地図から誘拐された場所を当てる謎解きが送られてきたり、お菓子で彼女の痕跡が分かりやすく残されてあったりと、まるでこの事態を予期していたかのようなヒントがすぐにポンポンと出てきます。
そのため「〈小佐内スイーツセレクション・夏〉にやたら機嫌よく小鳩を巻き込んだ段階から、小佐内さんの掌の上だったんだろうな……。」と察しがついてしまい、緊迫感はあまりありません。

ある意味小佐内を信じていた人であれば、誰しもがそう思うのではないでしょうか。
しかしそれを承知の上で、彼女はこちらの想定をはるかに超えていた事が終章で明かされます。

せきゆら
せきゆら

ちなみに今回謎解きに出てきたカヌレですが、ブームが来る前に刊行されたせいか、作品内における認知度が低くて時代を感じました。

終章 スイート・メモリー

誘拐事件解決後、再びスイーツ巡りに出かけた小鳩と小佐内。
トロピカルパフェを食べながら、小鳩はこれまで見過ごしてきた彼女の違和感を取り上げ、誘拐事件の真相を推理していく。

謎解きせずにはいられない性分が抑えられず、ついに小鳩が誘拐事件の全貌を暴いてしまいます。

小佐内が黒幕という展開自体は想定していたはずなのですが、先述の通り「え、そこまでやったの!?」とこちらの予測を軽々と上回ってきました。

前作の比ではない強烈な真相なので、彼女に対しては賛否両論ありそうですね。
しかし作品を面白くさせてくれる存在としては、100点満点な立ち回りだったと思います。

続編が気になるラスト

小佐内が企てた誘拐事件計画を機に、ついに互恵関係を解消する事になった小鳩達。

前作の2人は「互いの性質を抑え合いつつ、一定のラインまでは暗黙の了解で解禁を許す」という匙加減が丁度良い関係でした。
これに対し、今作は自身の性質を解禁したいが故に互いを利用しあっていたため、前作から既にうやむやな部分があった互恵関係は完全に崩壊してしまいます。

とはいえ今回小佐内が一線を越えた行為に小鳩を利用していた事を考えると、まだ穏便に関係解消が出来た方かと思いました。

しかし話がついた後も互いに未練がある様子を見せていたので「もう互恵関係に拘らず、別の形で関係を構築していけば良いのに」と感じるのですが、もはや恋人の別れ話のような空気感なので、ここからどう続編の「秋期限定栗きんとん事件」へ繋げていったのか非常に気になります。

せきゆら
せきゆら

引き続き続編を追いかけたいと思います。

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