【感想】「栞と嘘の季節(米澤穂信)」帰ってきた図書委員シリーズ続編

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ミステリー

この記事では『栞と嘘の季節』のレビューを書いていきます。

本書は前回の記事で紹介した『本と鍵の季節』の続編です。

前作で自身の過去に踏み込まれすぎた結果、図書室に姿を現さなくなった松倉。
その後彼はどうなってしまったのでしょうか。
あまりに気になってしまったため、すぐに続編を読んでしまいました。

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【栞と嘘の季節】のあらすじ

高校で図書委員をつとめる堀川次郎と松倉詩門。
ふたりは図書室の返却本の中に、トリカブトの花の栞を見つける。
校舎裏でトリカブトが栽培されているのも発見し、そしてついには被害者が…。
「その栞は自分のものだ」と嘘をついて近づいてきた女子・瀬野とともに、ふたりは真相を追う。
殺意の奥にある思いが心を揺さぶる、青春ミステリ長編。

「BOOKデータベース」 より

当たり前のように松倉がしれっと図書委員に復帰しています。
経緯が気になるところですが、本書の話の中心は「松倉のその後」についてではないようです。
とはいえ図書委員シリーズのファンにとっては堀川・松倉コンビの復活が確定しただけでも嬉しいですね。

前回に続き堀川と松倉が、図書室に持ち込まれた謎に挑む短編連作集だと思っていましたが、今回はまさかの新ヒロイン・瀬野が登場し、共に謎に挑む長編となっています。
謎も高校生の日常範囲内で起こる出来事から、トリカブト(毒)を使った事件性のある事態へと発展。
彼らはこの謎を解くことが出来るのでしょうか。

【栞と嘘の季節】はどんな人にオススメ?(レビューまとめ)

Amazonレビューでは下記のような感想がありました。

批判的な意見
・劇的な展開はない
・前作同様、リアリティーが無い

前作より物騒な事件が起きているとはいえ、命を奪われる程の事態には発展していないため、人によっては物足りない人もいたみたいですね。
それはそれで、子供にも気軽に読ませやすいミステリーであるとも言えます。

更に今回も設定のリアリティーの無さに対する指摘が入っていました。
新たに登場した人物達もなかなか個性的で、その背景や動機も独特だったため、読み手が共感して楽しむのは難しかったのかもしれませんね。

肯定的な意見
・長編になった分、充実した話になっている
・堀川と松倉の言語化し難い関係が魅力的
・ビターな読後感は健在
・青春ミステリーとは思えない緊張感が良い

短編から長編に形式が変わったものの「ほろ苦い青春ミステリー」は今回も健在です。
堀川・松倉の軽妙なシャレを交えたやりとりも見られますが、今回は抑えめとなっています。
レビューにもある通り、事件によって緊張感が増した影響でしょうか。

せきゆら
せきゆら

前作『鍵と本の季節』が刺さった人は勿論、学生にもオススメしたい作品です。

前作【本と鍵の季節】を読んでいなくても楽しめる?

読まなくてもミステリーとしては楽しめますが、ストーリーとして楽しみたい人は間違いなく前作を読んだ方が良いです!

当たり前ではありますが、前作を読まなければ解けない謎は含まれていません。
にも関わらず前作の内容に引きずられた結果、私は推理を間違えてしまいました。
案外前作を読んでいない方が、余計な要素で推理しなくて済むのかもしれませんね。


しかし説明があるとはいえ、前作について触れる場面も多くあるため、読んでおいた方が理解はしやすいと思います。

せきゆら
せきゆら

「前作に出ていたあの人がそんな事に?!」という驚きも味わえました。

何より図書委員シリーズ最大の魅力は、探偵役である堀川・松倉の存在でもあるため、物語として楽しみたい人にはまず『本と鍵の部屋』から読む事を強くオススメします。

【栞と嘘の季節】の感想

タイトル通りみんな「嘘」だらけ

学校からほぼ舞台が動かないにも関わらず、話が二転三転して飽きないのは、登場人物がみんな嘘をついていたからです。
事件と関係ない事情で嘘をまぜてくるパターンもあるため、全てを見破るのは不可能に等しいですね。
何もかも疑う意気込みで読むことをオススメします。


ちなみに、これは最後まで嘘かハッキリしませんでしたが、私は黒幕に近い存在である『配り手』の主張(動機)も全て嘘に感じました。
どちらかといえば瀬野の『配り手』に対する分析と同意見です。
動機と言動が噛み合っていないため、あくまで自己顕示欲を満たすための大義名分として掲げていただけのように見えました。
この部分は読み手によって意見が分かれそうですね。

松倉が前作で抱えていた問題はどうなった?

前作の内容を覚えている人は、松倉が抱えていたとある問題にどのような結論を出したのか一番知りたいかと思います。
ではその問題について本書で答えは分かるのでしょうか。

結論から述べると分かります。

本書は松倉が図書館に来なくなり2ヶ月ほど経過した所から始まります。
松倉がいなくなった分、堀川は図書委員の仕事に追われるようになり、仕事が溜まる一方でした。
そんなある日、後輩の植田にシフトを代わってもらった松倉が、当たり前のような顔で図書委員に復帰してくるのです。
これは彼が抱えていた問題に、決着をつけてきたという意味でした。

しかし堀川は前作でその問題にこれ以上関わるべきではないと判断していたため、どのような結論を出したのか聞く事はありませんでした。
松倉も答える気はなかったでしょう。

しかし今回事件を追う過程で、松倉のとある事情が明らかになってきます。
それを知った堀川は、松倉の出した結論を悟りました。

せきゆら
せきゆら

説明はありませんが、読み手にも推測で分かるようになってます。

以上の経緯により図書委員のバディは完全復活しましたが、お互いにプライベートな部分には一切踏み込みません。
それは自分の家の場所すら教えないほどの徹底ぶりです。
前作で松倉の過去に踏み込みすぎた結果、2人の縁が切れてもおかしくない状況になったのを見るに、一定の距離感があるからこそ成立する友情なのでしょうね。

とはいえ都合が良い時にだけつるむのではなく、互いに対する敬意を持った上で接するのがこの2人の良い所です。

もう1人の主人公・瀬野

そして今回、重要人物として登場した瀬野。
実は前作でも名前だけ出されています。
その時には「美人だが性格が悪い」という噂が流されていました。
丁度『本と鍵の季節』を読み終えたタイミングだったため気づけましたが、これが出版されたのは2018年。
当時読んでいた人の中には「誰だったっけ?」と思い出せない人も多そうです。
そんな彼女が続編でヒロインに選ばれるとは思ってもみませんでした。

せきゆら
せきゆら

ちなみに前作の初っ端からヒロインのごとく登場した浦上先輩は、今回出番すら無いようです…。

瀬野は堀川・松倉に栞の出所を探るよう依頼した人物として、時には彼らが気づかなかった要素を指摘する鋭さを見せたりと大活躍します。
堀川と松倉の推理に導かれ『配り手』と対峙する彼女の毅然とした姿は必見です。

ちなみに瀬野が抱えていた悩みについては賛否両論だったようですね。
共感しづらい悩みではあるので、分からなくはないです。
個人的には「その家庭環境で育てられたら、こう思ってしまうのも仕方ないか」という気持ちでした。

最後に

形式は大きく変わったものの、図書委員シリーズ特有の魅力は健在で相変わらずの面白さでした。
その後が気になる人物もまた何人か出てきたため、続編を期待したいですね。

ちなみに本書につきましてはBook Bang』で著者がインタビューを受けています。
続編を出すに至った過程、堀川と松倉の関係、瀬野の人物造形など、興味深い内容ばかりなので、読後に読まれる事をオススメします。

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