【感想】「ジェリーフィッシュは凍らない(市川憂人)」SF要素が盛り込まれたクローズド・サークル

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ミステリー

この記事では『ジェリーフィッシュは凍らない』についてあらすじ・感想などを紹介しています。
ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意くたさい。

マリア&漣シリーズの感想記事はコチラから↓

1.ジェリーフィッシュは凍らない(当記事)
2.ブルーローズは眠らない
3.グラスバードは還らない

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【ジェリーフィッシュは凍らない】のあらすじ

特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船“ジェリーフィッシュ”。
その発明者である、ファイファー教授たち技術開発メンバー6人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。
ところがその最中に、メンバーの1人が変死。
さらに、試験機が雪山に不時着してしまう。
脱出不可能という状況下、次々と犠牲者が…。
第26回鮎川哲也賞受賞作。

「BOOKデータベース」 より

本書は現実とはやや異なる、パラレルワールドの話となっています。
そのため国の名前も「U国」といったように、ぼかされていました。
現実世界との大きな違いは「ジェリーフィッシュ」という架空の小型飛行船が開発されている事です。
今回はこのジェリーフィッシュを利用したクローズド・サークルもの(外部へ出られず、連絡も出来ない状況下で起こる事件)となっております。

【ジェリーフィッシュは凍らない】はどのような人にオススメ?(レビューまとめ)

Amazonレビューでは下記のような感想がありました。

批判的な意見
・化学の知識が無いと分かりづらい部分がある
・緊張感が無い

ジェリーフィッシュを誕生させた架空の技術について説明があるのですが、理系でなければ理解するのは難しいです。
しかし「最先端の凄い技術」という認識を持っているだけでも、ミステリーとして楽しめるよう配慮されているため「説明が難しい」という理由だけで避けるには勿体ない作品だと思います。

その一方で構成の都合上、事件の犠牲者が先に全員判明するため、緊迫感がなくなったとの意見もありました。
元々作品に「21世紀版・そして誰もいなくなった」という煽り文句がつけられていた事から、ストーリーの緊迫感よりも、推理に力が入っていたように感じます。


その一方で、肯定的な意見も紹介します。

肯定的な意見
・トリックが高評価
・SF要素を取り入れた世界観が独特で素晴らしい
・アンフェアではないため、純粋に推理を楽しめる
・終盤から凄まじい盛り上がりを見せた

とにかくトリックに熱を入れている本書。
今思えば、所々で正解の一部を提示してくれていたのですが、それらの要素を全て拾い、組み合わせて真相に到達するのは至難の業でした。
後半の盛り上がりが評価されていたのは、この散らばったヒントが徐々に繋がっていく過程の鮮やかさも理由の一つだと思います。

せきゆら
せきゆら

トリックに驚かされたい人にオススメ出来る作品です

【ジェリーフィッシュは凍らない】の感想(ネタバレ注意)

せきゆら
せきゆら

犯人の名前やトリックについては伏せますが、内容のネタバレが含まれておりますのでご注意下さい。

3つの視点から真相に迫る

本書は下記の3つのパートから構成されており、同時進行していきます。

ジェリーフィッシュパート(1983年2月7日〜1983年2月9日)
事件当日の様子です。
主に搭乗者の1人、ウィリアムという人物の視点から事件を見ていきます。
地上パート(1983年2月11日〜1983年2月15日)
A州F警察署刑事課所属・マリア・ソールズベリーとその部下・九条漣による事件の捜査パートです。
インタールード(???)
犯人の独白。
自身の過去を中心に語っています。

各視点からしか得られない情報を組み合わせれば、読み手は事件の全容を知る事が出来るように構成されています。
これにより犯人の動機が早い段階で判明し、犯人当てが簡単になってしまった(動機に当てはまらない人物が犯人だと透けた)のは難点でしたが、構成としては非常に読みやすいものとなっていました。
当初、何故ジェリーフィッシュパートはウィリアム視点中心なのか疑問でしたが、思いつきで理由を並べてみると、

・例の計画について「知らない側」なので、ラストまで研究員達の真相を伏せられる
・読み手から見て、事件の流れを最後まで見られる位置にいる
・犯人すら知らなかった秘密を抱えていた。

など、彼以上に適任な視点はなかったように思えます。

マリア&漣シリーズの始まり

ジェリーフィッシュの墜落現場から最も近い警察署であった事から、事件の担当となったマリアと漣。続編以降も、引き続き彼らが探偵役として活躍するらしく「マリア&漣シリーズ」と呼ばれるようになったそうです。
探偵役であるマリアは容姿端麗でありながら、ガサツでだらしない人物。
しかし発想の柔軟性と推理力は本物であり、署内でも一目置かれています。
対してマリアの部下・漣は几帳面な性格をしており、だらしない彼女に辛辣な言葉を浴びせつつ、右腕としてマリアをサポートします。
ジェリーフィッシュの構造説明等も彼の役割です。
2人の関係は登場時から既に完成しているようで、見事なコンビネーションを見せながら犯人を追い込んでいきます。

このコンビに対する評価を見てみると、賛否両論でしたね。
最近のミステリー小説に多い、アニメに出てくる登場人物のようなキャラ付けで言動も個性的なので、これを受け入れられるかどうかで評価が真っ二つに分かれていた印象が強いです。
他の登場人物達がそこまで個性的ではない分、余計彼らのキャラが目立っていたのもありますね。


ちなみにこの2人に加え、検死官のボブと空軍少佐のジョンも協力者として登場します。
どちらも優秀で、マリア達とは異なる視点から意見を出してくれます。
脇役でありながらも、頼り甲斐のある2人です。

せきゆら
せきゆら

続編にもいて欲しいと思えるぐらいには愛着が持てる人物達でした。

犯人について

今回の犯人は5人もの命を奪った凶悪犯でしたが、比較的同情の声が高かったように感じます。
これは私の勝手な推測ですが、

・犯人パートを入れた事で、犯人の過去や内面について掘り下げられていたため、感情移入しやすかった。
・悪人揃いの被害者に同情出来ず、犯人に気持ちが傾くように描かれていた。
・無関係の人間を巻き込まなかった。

といった理由からかと思いました。

しかし被害者達を社会的に破滅させる方法を持っていたにも関わらず殺害を選択したり、殺人に手を染める前から平然と遺体をバラバラに解体出来たりと異常な人物ではあります。
「彼女」への強すぎる愛がなければ、サイコパスではないかと疑っていたほどです。
被害者達もなかなかの事をやらかしていますが、怖さでいえば犯人の方がはるかに上でした。

最後に

決して明るい話ではありません。
しかし定期的に刑事2人の陽気な掛け合いが挟まれるせいか、読んでいて暗い気分にはなりづらかったです。

ラストシーンの後、彼らがどうなったのかは読み手の想像次第ですが「逃げるつもりか」という質問に対し、首を振って「少しだけ時間をください」と返していた事から、戻ってくる意志はあるように思いました。

後日追加
続編にて「ジェリーフィッシュ事件はいまだに明らかになっていない部分が多い」と言及されたことから、戻ってこなかった可能性の方が高そうです。

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