【感想】「名探偵のはらわた(白井智之)」実在の事件を元にした特殊設定ミステリー

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ミステリー

この記事では「名探偵のはらわた(白井智之)」についてあらすじ・感想などを紹介しています。

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【名探偵のはらわた】のあらすじ

「亘君、君は真実を語るべきだ」
農薬コーラ毒殺魔、局部切断女、そして恐怖の三十人殺し!
昭和史に残る極悪犯罪者たちが地獄の淵から甦り、現代日本で殺戮の限りを尽くす。
空前絶後の惨劇に立ち上がった伝説の名探偵は、推理の力でこの悪夢を止められるのか。
「疑え—そして真実を見抜け」
二度読み必至の鮮やかな伏線回収、緻密な論理による美しき多重解決。
本格ミステリの神髄、ここにあり。

「BOOKデータベース」 より

登場人物(一部人物のみ)
原田亘……浦野探偵事務所の助手
浦野灸……浦野探偵事務所の探偵 
みよ子……亘の恋人

【名探偵のはらわた】はどのような人にオススメ?

・特殊設定のあるミステリーが読みたい人
・昭和に起きた実在の事件を知っている人
・連作短編形式のミステリーが読みたい人

ネタバレ注意【名探偵のはらわた】の感想

ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。

振り切った特殊設定

本書最大の特徴は、昭和に起きた殺人鬼達が現代に蘇り、再び殺人を繰り返す事です。
しかも蘇ったのは阿部定事件や津山三十人殺しなど、実在の事件をモデルにした人物ばかり。
人間ではなく「人鬼」として蘇った彼らは、生前の犯罪を当時に近い状況で繰り返すように作り変えられています。

せきゆら
せきゆら

元の事件からの先入観や、人鬼達に課せられたルールもトリックに利用されるため、非常に重要な特殊設定です。

しかもそんな彼らを唯一推理で追い詰められる名探偵・浦野は、蘇った人鬼の1人・向井鴇雄(都井睦雄)に襲われ、亡くなってしまいます。
他の人鬼達による被害も拡大していき、治安は悪化していく一方。
最早人鬼達を止める術はないのか……と読み手の私すらも絶望し始めていた中、彼らに対抗しうる名探偵が、火葬前だった浦野の肉体を通じて蘇りました。
その名も古城倫道。
この世界では実在した名探偵とされており、死後彼を題材にした作品が出た事で、亘を含めた根強いファンも多い人物です。
人鬼退治をするにあたり「実績と手下がいる探偵・浦野の肉体を選んだ」と話す古城は、半ば強引に亘を巻き込んでいきます。

確かに序盤からファンの亘によって古城の話は出ていたものの、まさか本人復活の伏線とはまったく思ってもみなかったので、非常に熱い展開でした。

せきゆら
せきゆら

全体的に何となく「魔界転生」を思い出してしまう設定だった事にも、テンションが上がりました。

タイトル回収が面白い

「名探偵のはらわた」というインパクトのあるタイトルですが、作中において何重にもわたるタイトル回収がなされており、読んでいて心地よかったです。
具体的には、

・原田亘(はらだわたる)につけられたあだ名が「はらわた」 
・鴇雄の襲撃により腸管を損傷し、死に至る名探偵・浦野
・浦野の死後、その肉体に憑依した古城倫道
・これまで推理ミスで失敗してきた原田亘(通称・はらわた)が、最後に名探偵として覚醒する展開 


など、そのままの意味からストーリー的な意味まで、様々な意図が含まれています。
正直最後まで浦野や古城ではなく、亘が名探偵であるかのようなタイトルに疑問があったのですが、それすらもラストを想定した伏線だったとは驚きました。

表紙に描かれた女性は?

本書を読み終えた後も何者なのか分からなかった表紙の女性。
しかしよく見てみると、この内巻きショートボブに赤いスカーフは、作中に登場する「トキオファッション」と一致しています。

最近は内巻きショートボブに真っ赤なスカーフを首に巻いた女子がやたらと目立つ。
昨年九月に封切られ、日本でもヒットした「アリス・イン・スラッシャーランド」の影響だ。
犯罪史に残る殺人鬼たちが美少女になって大暴れするという荒唐無稽な話で、日本からは宿刈横恵が出演している。
彼女が演じたトキオこと向井鴇雄のキッチュでポップなファッションは大きな話題となった。

168ページより

「大流行のファッション」という設定もあり、作中において同じ格好をしている女性は山ほど登場します。
そのため表紙が具体的にどの女性を指しているのかまではハッキリと断定出来ません。
しかしトキオファッションで銃を所持する女性が作中にいない事から、もしかすると表紙の女性はトキオを演じている最中の宿刈横恵本人なのかもしれません。

トキオファッションの元となった向井鴇雄は、本書においてすべての始まりとなる存在でもあるため、読後の今なら表紙のモチーフとして選ばれるのも納得ですね。

せきゆら
せきゆら

内巻きショートボブ美女として、自身が流行る現世を見た鴇雄は何を思ったのでしょうか。

最後に

鴇雄は倒したものの、まだ半分近くの人鬼が残ったまま終わってしまいました。
続編が待ち遠しいですね。

中でも生前捕まらなかったとされる農薬コーラ事件の犯人は、現世でも古城達の目をかいくぐりながら犯行を続けているため、ますますその実態が気になりました。
ラストも農薬コーラ事件の犯人と思わしき被害が出ていたため、いずれ決着がつく事を期待します。

せきゆら
せきゆら

姉妹作はあるそうですが、明確にシリーズ化された作品ではなさそうなので、このまま続きが出ないのではないかと冷や冷やしています……。

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