この記事では「アムステルダム運河殺人事件(松本清張)」のあらすじや感想を紹介していきます。
【アムステルダム運河殺人事件】のあらすじ・登場人物
アムステルダムの運河にジュラルミンのトランクが浮かんだ…。
かつて迷宮入りとなった日本人商社マン殺害事件の謎を追いかけ、勇躍現地に赴いた著者は、E・A・ポーの手法を駆使して真犯人を割り出す、スリリングな推理小説。
ゴルフの聖地で起きた日本人変死事件の謎を解く異色作品を併録。「BOOKデータベース」 より
登場人物(一部のみ)
アムステルダム運河殺人事件
坂崎次郎……石田物産会社の当地駐在員
大久保裕太郎……丸星商事の支店長
雨宮重太……葉村貿易商会の駐在員
ボンムレー夫人……アパートの管理人
エドモン・ポンムレー……ポンムレー夫人の夫
ルイ・グレズゲル……製造工場の経営者
ヘンドリック・ファン・ベルケム……ライツセプレイン警察署の高等警部
「私」……総合雑誌の記者
久間鵜吉……医者
セント・アンドリュースの事件
矢部開作……矢部製作所の専務
庄司正雄……矢部製作所の顧問弁護士
田原……矢部製作所のパリ駐在員
鈴木吉蔵……東邦印刷会社の専務
山宮篤子……高級バー「飾り」の経営者
【アムステルダム運河殺人事件】はどのような人にオススメ?
・実在の未解決事件から、独自の推理を展開していくミステリーに興味がある人
・イヤミスとはまた違うタイプの、スッキリしない読後感を味わい人
・著者自身が現地で行なった取材を元に、海外を舞台にしたミステリーに関心がある人
【アムステルダム運河殺人事件】の感想
ネタバレが含まれる部分がありますので、閲覧の際はご注意ください。
ネタバレ無し:趣向が異なる2編
本書は「アムステルダム運河殺人事件」「セントアンドリュースの事件」の2編で構成されています。
どちらも中編程度の長さとなっていました。
しかし前者は実際に起こった未解決事件をモデルにしたストーリーを、後者は完全にオリジナルの事件を描いているという、大きな違いがあります。
そのため同じ海外を舞台にしたミステリーでありながら、大きく趣向が変わった2編だったように感じました。
ネタバレ感想:アムステルダム運河殺人事件
先ほど当たり前のように『実在の事件を扱っている』と説明しましたが、恥ずかしながら私は本編を読み終わるまでこの事件について知りませんでした。
しかしやたら事件に関する具体的な記事が多く載せられていたり、同じく実在の事件を扱った作品「マリイ・ロージェ事件(エドガー・アラン・ポー)」の内容に触れてくるため、知らない人でも何となく実在する事件だと察しがつくように書かれています。
さすがに事件関係者の名前は変えているものの、雨宮の事故死等含め、忠実に元の事件を再現されていたようです。
またこの事件は、探偵役の医者・久間と助手役である記者「私」が事件の現場や関係者から更に情報を集め、推理を進めていく構成となっています。
そのため最初は事件概要の情報量が多すぎて戸惑いますが、彼らが上手いこと話を整理まとめてくれるので、思った以上に読みやすかったです。
最後に推理について、切断部分の違和感が何度も取り上げられていたため、重要な伏線である事は理解していましたが、その上で『そうきたか!』と驚かせてくれる答えだったのは面白かったです。
久間の推理だけでなく「私」の推理も真相としてありえそうな所は、未解決事件を題材にした作品ならではだと思いました。
ネタバレ感想:セントアンドリュースの事件
被害者が初っ端から『セントアンドリュースでなら死んでもいい』と死亡フラグを立ててくる上、犯人候補である他の登場人物達が定期的にその発言をネタにしてくるため、何が起こるか最初からうっすら察しながら読み進める事になります。
しかしこの死亡フラグによって生まれた先入観から『犯人は被害者のその言葉を知っている誰かだろうな⋯⋯』とミスリードさせてくるところが、この作品の面白い所でした。
アムステルダム運河殺人事件に比べると、事件が起こるまでの旅行過程を中心に描いているため終盤まで事件が起きない、探偵役と助手役による捜査パートが無い等の大きな違いがあるので、新鮮な気持ちで読めました。
アムステルダム含め、作者が取材旅行しただけあって街並みや観光地の描写が多いのも、読んでいて楽しい部分です。
最後に
趣向が異なる2編だったものの、両編ともあくまで推測の範囲内でしか推理を展開しないため、どちらも表向きは未解決のまま終わる所は同じです。
そのためイヤミスとはまた異なる、スッキリしない読後感を味わう事が出来ました。