この記事では『断罪のネバーモア』についてあらすじ・感想を紹介しています。
ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。
【断罪のネバーモア】のあらすじ
度重なる不祥事から警察の大改革が行われた日本。
「BOOKデータベース」 より
変革後の警察にブラックIT企業から転職した新米刑事の藪内唯歩は、茨城県つくば警察署の刑事課で警部補の仲城流次をパートナーとし殺人事件の捜査にあたる。
刑事課の同僚たちの隠しごとが唯歩の心を曇らせ、7年前の事件が現在の捜査に影を落とす。
ノルマに追われながらも、持ち前の粘り強さで事件を解決した先に、唯歩を待ち受ける運命は—。
リアル警察小説と本格ミステリの2重螺旋!
白黒が全反転する奇跡の終盤に瞠目せよ!!
この世界において特徴的なのは、警察が民営化されている事です。
これにより元々警察官だった者達はIISC(Incidents Investigation and Solution Co.,Ltd.)という、警察庁から様々な仕事を委託された民間組織へと転属する事になりました。
現在は『IISC東日本』『IISC西日本』『IISCデータ』という3つの法人ごとに組織が分かれています。
本書の主人公・薮内唯歩はブラックなIT企業から転職したばかりの新人で、現在は『IISC東日本つくば支店』に所属する刑事課捜査員という異色の経歴を持っています。
また唯歩だけでなく、配属先であるつくばの支店長も元保険会社の営業部長であったりと、上の人間にも民間から入社してきた人物がいるのも特徴です。
彼らは警察が民営化されたこの世界ならではの存在ですね。
【断罪のネバーモア】はどのような人にオススメ?(レビューまとめ)
Amazonレビューでは下記のような感想がありました。
確かに私も読んでいて、あの犯人に対し「そこまで都合良く人が動くか?」「自分が犯人と言われているのに、抵抗しなさすぎではないか?」と違和感を覚える部分はあったものの、全体的なトリックや動機に大きな不満は見られませんでした。
昨年出版されたばかりでレビュー自体が少なかったせいか、批判的な意見はあまり見られなかったですね。
その一方、少ないレビューの中でも肯定的な意見は多くありました。
・主人公に魅力がある
・予想出来ない真実だった
元々作者はデビュー作でもある「マリア&漣シリーズ」で既に警察小説☓本格ミステリーの融合をやっていました。
その経験が本書でも存分に活かされていましたね。
「警察が民営化された世界」という特殊設定を入れているものの「実際にそうなったら」というIfを本格的に想定した世界観であるため、警察小説としてのリアリティーは失われていません。
そして主人公の藪内唯歩については魅力的に描かれているという声がありました。
藪内は設定に現代的な要素を盛り込んだ事で、読み手に共感されやすい人物像に仕上がっていたため、私も読み進めている内に藪内に惹き込まれていましたね。
特殊設定付きの警察ミステリーに興味がある方にはオススメです。
【断罪のネバーモア】の感想(ネタバレ注意)
感想を述べる上で必要なネタバレをしているため、未読の方はご注意ください。
(真相の全てまでは明かしていません)
短編でありながら長編並のボリューム
本書は連作短編となっております。
あらすじの情報しか知らなかった私は、最初の事件が解決しそうな空気になった所でようやく気づきました。
しかしすべての短編がやがて一つの真実へ繋がっていく上、トリックを当てるどころか理解しようとするだけでもなかなか難しいため、感覚としては長編を読んだ時と同じ疲労感があります。
短編とはいえサクッと読める内容ではないため、じっくりと本格ミステリーを楽しみたい人向けです。
現代的なテーマが多い
去年(2022年)刊行されたばかりの作品であるせいか、私達が日常でよく聞くテーマが多いのも本書の特徴です。
例えば、最初に起きた事件の被害者は熱烈な推し活をしていた女性です。
この事件では、彼女が保管する推しのグッズを元に推理が展開されていきました。
またIT企業で発生した事件では、AIを使った謎のアプリが話の中心に置かれていたりと、私達が最近日常で聞いた事があるような題材ばかりが選ばれています。
そしてこの世界でも現実同様コロナが流行っていたらしく、これらの題材は謎解きや後の展開への伏線として利用されています。
警察小説と本格ミステリーの融合と謳われた本書ですが、実際に読んでみると様々な題材が融合されていましたね。
推し活やAIに関する部分は、読み手側が元々持っている知識量で理解度の差が広がりそうですが、コロナは現在ほとんどの人に通じるテーマなので、読んでいて頭に入ってきやすかったですね。
主人公・薮内唯歩の魅力
主人公の藪内唯歩も元ブラック企業の社畜という、妙にリアルな設定を持っています。
当時は過酷な労働とパワハラにより倒れ、病院送りになるまで働いていました。
その後労働基準監督署が入り、会社は倒産したものの、パソコン操作に対する異常なトラウマが残った上、極端な自己否定をする性格になってしまいます。
そのためほぼ藪内視点で進む本書は非常にネガティブな独白が多く、読み手側の視点と感覚がズレやすいのが特徴です。
特に薮内視点では、署内の同僚達から落ちこぼれ扱いされている描写が盛りだくさんなのですが、読んでいて「さすがにちょっとそれは薮内の被害妄想が入ってないか?」と困惑する事もしばしばありました。
しかしこのネガティブすぎる言動も、過去に受けたパワハラと重労働に耐えきれなかったことで「自分は駄目人間」と刷り込まれたせいだと思えば納得出来るため、読んでいてイライラする事はなかったですね。
刑事課に配属された後も過酷な労働の日々が続くのですが、ブラック企業での経験が活かされた結果「前の職場と違って、残業代がちゃんと出る」と妙に前向きで全くめげる様子を見せないのも、理由の1つでしょう。
読んでいて素直に応援したくなる主人公でした。
パートナー・仲城流次の謎
薮内が事件の捜査を進めていく内に、署内の同僚達も何かを隠しているかのような素振りを見せてきます。
中でもミステリアスなのが、薮内のパートナーかつ先輩刑事である仲城流次。
彼は特定の人物や場所に対し、意味深なリアクションをします。
更に事件の捜査では、藪内より推理が進んでいても自分から指摘する気がなかったりと、捜査に非協力的な姿勢を見せてきました。
しかし同僚達は彼の素行を全く問題視しないどころか、藪内だけを外し何か話し合っていたりと不審な動きをします。
そのためパートナーというよりは、仲城の謎に薮内と共に迫っていく構成になっていました。
その後真相が明らかになり、彼のこれまでの言動が紐解かれていった所が個人的に一番盛り上がりましたね。
表面上の真実が全てひっくり返るシーンでもあったので印象に残っています。
まとめ
読む前はあらすじの情報と、やたら怪しい同僚達を見て「署内の不正を新人警官が暴く物語」を予想していました。
しかしいざ蓋を開けて見ると、そんなありきたりな話ではなかったですね。
最後には驚きの真相が待っていましたが、まだ裏がある事を匂わせる終わり方をしたため、続編が出る可能性は高そうです。
もし続編が出るのだとしたら、構成の都合上、終盤まで個性を出せなかった同僚達の掘り下げに期待したいですね。
また捜査を避ける必要がなくなった仲城が、今後薮内のパートナーとしてどのように事件へ関わっていくのかも気になるところです。
(不真面目なので、基本薮内に仕事を投げるスタンスは変わらなそうですが)