この記事では「青銅ドラゴンの密室(安萬純一)」のあらすじや感想を紹介していきます。
〈ドラゴン〉〈密室〉という、ファンタジーとミステリーが融合したかのようなタイトルに惹かれて読んでみました。
【青銅ドラゴンの密室】のあらすじ・登場人物
ホルツマイヤー家の敷地内にある青銅のドラゴンの塔。
南雲堂HPより
そこに近代建築研究家と称するラグボーンが訪ねてくる。
探偵でもあるという彼に当主ゲオルグ・ホルツマイヤーは塔の調査の見返りにある事件の謎を解いて欲しいと依頼する。
調査の最中、ゲオルグの孫が惨殺される事件が起こる。
その殺され方は百年前にドラゴンの建造後まもなく内部で二人の旅芸人が殺さた方法と同じものであった。
登場人物
ホルツマイアー家
ゲオルグ・ホルツマイアー……当主
マーシャ……ゲオルグの妻
ハーバート……長男、ホルツマイアー社社長
レオノラ……ハーバートの妻
ジーク……ハーバートの長男
クリス……ハーバートの次男
クラウス……次男、ホルツマイアー社副社長
オルガ……クラウスの妻
ブリジット……クラウスの娘
ペーター……三男
マン二……元工員
他
ミハイル・ラグホーン……近代建築研究家であり探偵
ザピチマン……殺人課警部
ヤキ……刑事
カローリ……刑事
カール……ブリジットの恋人
ハーマン・フィスク……ジークの十年来の知り合い
エアコンの修理工……トルコ人
過去編
ギョーム・ハイゼンスタット……ゲオルグの祖父で、ホーヒムベルグ領主
ヘルメ……ギョームの部下
イビオ……旅芸人
サリー……旅芸人でイビオの弟子
【青銅ドラゴンの密室】はどのような人にオススメ?
・ロマンがある世界観が好きな人
・ミステリー初心者の人
・外国を舞台にしたミステリーに興味がある人
【青銅ドラゴンの密室】の感想(以下ネタバレ注意)
内容に関するネタバレが含まれております。
閲覧の際はご注意ください。
ロマンがある世界観
ドラゴンを模した塔。
その内部に入れられ、亡くなった人間の頭部にはドラゴンの牙のような跡が……。
とまさにドラゴンが復活したかのような状況と、塔を利用した大掛かりなトリックには恐ろしさだけでなくロマンもあります。
ドラゴンの復活などありえないのですが、序盤に雷が当たってドラゴンの塔が輝く演出は、復活を宣言しているようで心が躍りました。
同時に謎解きのヒントとして機能させていたのもお見事です。
更に百年前にまったく同じ方法で殺された男女の伝説や、その被害者が最期に遺したメッセージ、他にも探偵モノではお約束の展開である「関係者を一同に集めた推理披露」をあえてやってみたりと、多方面でロマンがある展開が見られて満足です。
ベタなのですが、やっぱりそれが良いんですよね。
人間関係や動機から推理してみた
塔のトリックがメインとなる本書ですが、前半は登場人物たちが持つ過去や因縁について語られるため、そこから推理しても楽しい作品です。
私は塔のトリックがまったく分からなかったので、せめて犯人だけでも当てられれば……と思い、人間関係から推理をしていました。
しかし作者の思惑通り、ハーバート視点に誘導されて「ピーターもしくは彼側の人間による復讐」と考えている内は、犯人候補がまったく浮かびませんでした。
それというのも今回被害者となったジークは、ピーターの復讐として殺害するにはあまりにも微妙な人選だからです。
ペーターの復讐が目的だった場合「ハーバートの息子であるジークを殺す事で、彼に復讐した」という動機になるのですが、そもそもジークはハーバートと戸籍上は親子というだけで、実際は血の繋がりがない上に仲も悪く、ハーバートが所有する財産を毟り取ろうとしていました。
そのためジーク殺しは復讐どころか、結果的にハーバートの財産を守る形になってしまいます。
他にも「息子を奪ってハーバートを苦しめたいなら、なぜ実の息子で狙いやすい子供のクリスじゃなかったのか」という疑問もあります。
こうなると「ハーバートが自身への復讐に見せかけて、ジークを排除した」と疑いたくなるのですが、ハーバート視点で語られるのは「ピーターから報復されるのではないか」という恐怖心ばかり。
ジークの存在を疎んじてはいるものの、殺さなければいけないと追い込まれるほどの脅威を感じているようには見えません。
何より「身内の人生を壊した事をここまで後ろめたく思う人間が、殺人に手を染められるのか」という違和感が拭えませんでした。
どう考えても犯人が浮かばないので、このあたりでようやく「ピーターの復讐自体がミスリードで、ジークは別件で殺されたのではないか」という路線に切り替えます。
そしてジーク殺害に無理やりこじつけられそうな情報が「ラグホーンの妹の自殺」ぐらいだったので、ようやくそこでラグホーンに疑いを向けられました。
ジークは他の登場人物達から容姿が優れていると度々指摘されている事、義理のいとこであるブリジットに「かなりの女たらし」と言及されている事から「ジークと付き合った女性達の中にラグホーンの妹がいたが、捨てられた等の理由で妹が自殺するに至った」とすれば一応辻褄を合わせる事が出来ました。
ドラゴンの塔のトリックはお手上げ状態でまったく解けませんでしたが、こじつけが偶然当たってくれたのは嬉しかったです。
最後に
ドラゴンの塔のトリックに関しては「もっと遺体に損傷や火傷の痕跡が残るのではないか」「凄まじい速度で皿が動いた状況で、頭部だけがぶつかる体勢を維持出来るのか」など不自然さが残るものの、面白味のある仕掛けで良かったと思います。
タイトルを見た時は本当にミステリーなのか疑っていた部分もありましたが、しっかり推理で楽しませてくれる本格推理ものでした。