【感想】「硝子のハンマー(貴志祐介)」万全なセキュリティをかいくぐる密室トリック

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ミステリー

この記事では「硝子のハンマー(貴志祐介)」の紹介・感想を書いていきます。

人気シリーズ「防犯探偵・榎本」の第1作目にあたる本書。

せきゆら
せきゆら

日本推理作家協会賞受賞作としても有名です。

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【硝子のハンマー】のあらすじ・登場人物

日曜の昼下がり、株式上場を目前に、出社を余儀なくされた介護会社の役員たち。
エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、有人のフロア。
厳重なセキュリティ網を破り、自室で社長は撲殺された。
凶器は。
殺害方法は。
すべてが不明のまま、逮捕されたのは、続き扉の向こうで仮眠をとっていた専務・久永だった。
青砥純子は、弁護を担当することになった久永の無実を信じ、密室の謎を解くべく、防犯コンサルタント榎本径の許を訪れるが—。

「BOOKデータベース」 より

登場人物(主要人物は色付き)

榎本径……防犯ショップ「F&Fセキュリティ・ショップ」店長
青砥純子……「レスキュー法律事務所」の弁護士
今村……同上

沢田正憲……「六本木センタービル」の警備員
石井亮……「六本木センタービル」の警備員

介護サービス会社「ベイリーフ」の関係者
穎原昭造……社長
穎原雅樹……副社長
久永篤二……専務
伊藤寛美……社長秘書
松本さやか……副社長秘書
河村忍……専務秘書
小倉……総務課長
安養寺……介護ザルの研究者
岩切……介護ロボットルピナスVの開発担当者
藤掛……顧問弁護士

【硝子のハンマー】はどのような人にオススメ?

・密室殺人のトリックに挑みたい人 
・セキュリティや介護システムに関する知識がある人
・倒叙ミステリーを読みたい人

【硝子のハンマー】の感想

感想を書く上で必要なネタバレ(構成や設定など)が含まれています。
未読の方はご注意ください。

異色の探偵役・榎本

探偵役である榎本は防犯ショップの店長……というのは表向きで、その本職は泥棒という異色の設定を持っていました。
助手役である青砥もその正体に勘付いてはいるものの、事件解決のため止むおえず目を瞑っています。
泥棒ゆえに「容疑者候補の自宅に無断侵入し証拠を暴く」という違法捜査を可能にした反面、捜査中に金目のものを見つけると、どさくさに紛れて盗んでいく厄介な人物でもありました。

そのため事件においては損得勘定で動くタイプかと思いきや、青砥にコンプレックスを刺激され自身の有能さを彼女に証明しようとしたり、「盗みは良いが殺人は許さない」という独自の矜持を崩せないが故に殺人事件へ深入りしてしまったりと、人間味を感じさせる一面も見せてきます。

個人的には「榎本が事件中、どさくさに紛れて被害者のダイヤモンド(の一部)を盗んでいたのではないか」と青砥に疑いを向けられた直後に「今は懐が暖かい」と彼女を食事に誘ったシーンがあまりにも図太すぎて笑ってしまいました。

せきゆら
せきゆら

彼らの続編の動向も気になりますね。

後半からの倒叙ミステリーが特徴的

本書は事件発生当日の様子から榎本が真相に到達するまでの過程を描いた第1部と、犯人の生い立ちから殺人に至るまでの過程を描いた第2部で構成されています。

中でも特徴的だったのは犯人パートの第2部。
ページ数的にまだ中盤でありながら、出だしから容赦なく犯人の名前を明かしてきます。
しかしこれまで一度も登場しなかった名前であるため、途中までこの人物が誰なのかを予想するのが面白かったです。

せきゆら
せきゆら

心当たりのある職業へ繋がった瞬間の「お前か!」という驚きは今でも忘れられません。

第2部はこれまでの登場人物達の出番を一気に減らして犯人自身に関する掘り下げや、動機から犯行準備について約200ページ程度にわたり語っていますが、犯人に感情移入してその緊張感を共有出来るように描かれているため、中だるみせずに楽しめました。

巻末のインタビューで分かる執筆過程も面白い

鍵や監視カメラといったセキュリティの話だけでなく、介護猿や介護ロボット等、多くの専門知識が出てくる本書。
「この作品を完成させるのに、どれだけの情報収集をしたんだろう……」と思いながら読み進めていましたが、文庫版の巻末に収録された法月綸太郎による作者へのインタビューでその一端が語られていました。
私生活で偶然他者に聞いた話から「セキュリティ」や「介護ビジネス」という題材に目をつけ、そこから取材魔である作者の膨大な取材量が積み重なった結果、本書の緻密な描写が生み出されたそうです。

作者のもう1つの代表作「黒い家」で描かれている保険会社は、作者自身の前職を活かした描写であるという話は知っていましたが、本書では未経験の題材まで膨大な取材量で実体験に匹敵する描写に仕上げてきていたというのは驚きでした。

秀逸なタイトル回収

「‥‥ガラス製のハンマーが、本当に危険な凶器になるのは、砕けてしまった後なんです」

青砥純子

終盤までこの内容がどのような過程を経て「硝子のハンマー」というタイトルへ繋がっていくのかイマイチ分からないまま読み進めていましたが、終盤で「凶器と犯人の世代」をかけた鮮やかなタイトル回収をしてくれます。
今思うと「これで解けるものなら解いてみろ」といわんばかりに凶器を明かした挑発的なタイトルでしたね。

せきゆら
せきゆら

「硝子のハンマー」から正しい凶器を連想するのは不可能に近いのでネタバレにはなりませんが、それにしても大胆な試みです。

最後に

事件当日、ビルには「世代が比較的近い・背が高い・挨拶もまともに返さない無愛想な性格」という共通点を持った石井亮・穎原雅樹がいた事から「どこかで2人が入れ替わるトリックでもやっていたのか?」と思いながら読んでいましたが、そんな単純すぎる予想はあっさり外れました。

何なら青砥が「秘書3人が入れ替わる」という、予想よりもはるかにインパクト満載なトリックを提示してきたため、読み手が入れ替わりを疑う事自体は作者の予想通りであった事がうかがえます。

せきゆら
せきゆら

複数の別解が作られているため、間違った要素を拾うとまったく真実にたどり着けなくなるのが歯がゆかったです。

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