この記事では「悪魔の手毬唄(横溝正史)」のあらすじや感想を紹介していきます。
過去にアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」を読ませていただいた際、同じく童謡に見立てた殺人事件の名作として、本書の名前が挙げられていたのを見て、興味を持ちました。
【悪魔の手毬唄】のあらすじ・登場人物
休養のため岡山県の僻地、鬼首村を訪れた金田一耕助。
耕助が逗留する「亀の湯」の主人源治郎は二十年前に殺害され、犯人と目される詐欺師恩田幾三はいまだ捕まっていないという。
東京で大人気のタレント大空ゆかりが、故郷のこの村へ帰ってくる—村中が歓迎ムードで沸き立つ中、庄屋の末裔多々良放庵が突如失踪。
これを皮切りに、悪魔が仕掛けたような狂気の連続殺人が、手毬唄にのせて幕を開ける…。
閉鎖的な山村を舞台に、真骨頂「見立て殺人」の深化に挑んだ、横溝文学の集大成。「BOOKデータベース」 より
登場人物(一部のみ)
金田一耕助……私立探偵
磯川常次郎……岡山県警の警部
立花……警部補
亀の湯
青池源治郎……次男、故人
青池リカ……源治郎の妻
青池歌名雄……源治郎の息子
青池里子……源治郎の娘
お幹……女中
仁礼家
仁礼嘉平……当主
仁礼咲枝……嘉平の妹
仁礼直平……嘉平の長男
仁礼勝平……嘉平の次男
仁礼文子……嘉平の娘
由良家
由良卯太郎……先代当主、故人
由良敦子……卯太郎の妻
由良五百子……卯太郎の母
由良 敏郎 卯太郎の長男、当主
由良泰子……卯太郎の娘
別所家
別所辰蔵……葡萄酒酒造の工場長
別所春江……辰蔵の妹、千恵子の母
別所五郎……辰蔵の長男
別所千恵子……恩田と春江の娘、人気歌手「大空ゆかり」として活動中
その他
恩田幾三……千恵子の父、源治郎殺しの容疑者として現在行方不明
日下部是哉……大空ゆかりのマネージャー
多々羅放庵……庄屋の末裔、当主
おいと……旅館の女将
【悪魔の手毬唄】はどのような人にオススメ?
・「獄門島」を読んだ人(一部内容に触れているため)
・見立て殺人を題材にしたミステリーに興味がある人
・多くの登場人物と複雑な人間関係が絡むミステリーが読みたい人
【悪魔の手毬唄】の感想(以下ネタバレ注意)
犯人等のネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。
相関図が欲しくなる複雑な人間関係だが……。
「獄門島」「八つ墓村」と同じく、辺鄙な場所で起こる連続殺人事件という設定は引き続き健在です。しかし今回は、手毬唄に出てくる屋号を持った家の娘を見立て殺人の標的としている事から、それぞれの家の家族がたくさん登場します。
そのため登場人物の数や人間関係の複雑さが、他の2作と比べるとダントツでややこしかったです。
作中にも相関図が掲載されていないため、すべての人間関係を把握するだけでも難しいと感じました。
ネットで相関図を検索してみようかとも思いましたが、以前「八つ墓村」を読んでいた最中にタイトル検索を行ない、サジェストで犯人の名前が見えてしまった失敗があるので、検索することも出来ず……。
読後に検索してみると、やはり相関図に真相に関する記載があるものがヒットしたため、やはり有名作は読み終わるまで検索してはいけないと思いました。
Wikipediaも真相まで明かされていたので、やはり脳内か手書きで覚えるしかなさそうです。
推理に挑戦しようとしましたが、全然ダメでした
今回も推理しながら読み進めるつもりでいましたが、その登場人物の多さと人間関係の複雑さゆえに容疑者候補が多く、今回は思った以上に推理が進まなかったです。
そのため犯人を捕らえた際、歌名雄が「顔が見たい」と言った時の金田一の反応を見るまで、歌名雄の母親であるリカが犯人だと確信出来ませんでした。
強いていえば亀の湯にいた犯人の老婆が突然消え、入れ替わるようにリカが出てきた時ぐらいしか怪しいと思えなかったです。
しかし途中から出てきた目立たない人物を犯人役にせず、序盤から20年前の事件までガッツリ登場していたリカを直球で犯人にした所には潔さを感じました。
更に放庵=老婆の1人2役説を匂わせる事で、間接的に源治郎=恩田の1人2役という真相に辿り着くヒントを出していたのも、非常にフェアだったと思います。
偉そうに評価していますが、私は全部気づけませんでした。
それにしても、以前読んだあの作品の犯人や今回の犯人・リカによって、私の中ではもう「金田一耕助シリーズに登場する聡明な美女=犯人」というトラウマがすっかり定着してしまいました。
今後本シリーズを読むたびに、聡明な美女が出てきたら先入観で警戒してしまいそうです。
今回はツッコミどころが少ない金田一?
金田一耕助シリーズを読む前から、彼に対しては「誰もが知っている伝説の名探偵」という強い先入観を持っていました。
その反動なのか、少しだけ金田一耕助シリーズを読み進めた今では「殺人を阻止する気がないのかと疑うほど、何かと詰めが甘くツッコミどころが多い探偵」というイメージを持ち始めていたところでした。
金田一の目をかいくぐれる犯人側がすごいという話なのでしょうが、いかんせん金田一の知名度が高すぎるので、過度な期待がかかってしまいます。
しかし今回は最初から最後まで金田一の活躍が多く、ようやく金田一耕助シリーズらしいストーリーを読む事が出来たように思います。
勿論ミステリー小説である以上、今回も事件を阻止する事は出来ないのですが、これまでのように事件前から被害者や犯人を知った上で殺人を阻止出来なかった訳ではありません。
ただ休養のために鬼肯村を訪れていた所を、偶然事件に巻き込まれただけだったという経緯だったので、これまでよりはまだ納得感がありました。
その上ラストのゆかり殺しだけは阻止に成功したため、今のところ最も金田一が活躍していた回だったように感じます。
まだまだ他のシリーズ作品にもこれ以上の活躍がありそうなので、楽しみにしています。
更に今回、金田一を強く尊敬する磯川警部とは対極的に、金田一へ反発心を抱く立花警部補の存在が新たに出てきた事で、上手くバランスが取れていたように感じます。
事あるごとに金田一に噛みついたり、民間人に当たり散らしたりと、あまり良い印象を与えてこない立花警部補。
しかし今回もまた事件が起きた後に「実は早い段階から犯人が分かっていた」と言い出す金田一に怒りを見せていた姿には、これまで事件も含めてさすがに共感を覚えました。
「もっと早く言っていれば、多分〇〇は殺されなくて済んだよな……」と毎回思う部分があったので、代わりにこの手の反応をしてくれる人物の存在は貴重だと思います。
最後はスッパリ金田一に負けを認める潔さを合わせ持っていたりと、立花警部補もなかなか憎めない人物でした。
最後に
ラストの場面まで、重すぎる事件の背景や、歌名雄を再出発へ導いたゆかりの一言などに様々な事を思っていました。
しかし最後の最後で磯川警部が今回の事件に執念を燃やしていた理由を、金田一が容赦なく暴露して、すべてを持っていってしまいます。
言われてみれば確かに心当たりのある場面はなくもないのですが、思わぬタイミングで思わぬ方向から伏線回収されたので、完全な不意打ちを喰らいました。
因縁に決着をつけた磯川警部からやりきった感が出ていますが、今後も是非活躍して欲しいです。