この記事では「リング(鈴木光司)」のあらすじや感想を紹介していきます。
ホラー小説を読みたいと思い、何かないかと探していたところ、ふと「そういえば貞子って何となく有名だから知っているだけで、原典は知らなかったな……」と思い、手に取りました。
【リング】のあらすじ・登場人物
同日の同時刻に苦悶と驚愕の表情を残して死亡した四人の少年少女。
雑誌記者の浅川は姪の死に不審を抱き調査を始めた。
—そしていま、浅川は一本のビデオテープを手にしている。
少年たちは、これを見た一週間後に死亡している。
浅川は、震える手でビデオをデッキに送り込む。
期待と恐怖に顔を歪めながら。画面に光が入る。静かにビデオが始まった…。
恐怖とともに、未知なる世界へと導くホラー小説の金字塔。「BOOKデータベース」 より
登場人物
浅川和行……主人公
浅川静……和行の妻
浅川陽子……和行の娘
高山竜司……K大学文学部哲学科非常勤講師
高野舞……高山の教え子
吉野賢三……新聞記者
山村貞子……??
【リング】はどのような人にオススメ?
・1990年代の時代背景に関心がある人
・貞子の始まりを知りたい人
・Jホラーに大きな影響を与えた作品を知りたい人
【リング】の感想(以下ネタバレ注意)
ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。
1990年代の時代背景や、ホラーならではの設定
「リング」の貞子といえば、ビデオを媒介にして相手を呪うことは、未読の人でも知っているほど有名な話です。
しかし令和の今だと「ビデオは懐かしい」と思うどころか「ビデオそのものを知らない」という人も増えているのではないでしょうか。
本書は30年以上前の作品なだけあり、ビデオだけでなくワープロやファクシミリなど、当時ならではの機器が多く登場します。
そういう意味ではホラーとしてだけではなく、1990年代の世界を体感するという楽しみ方もアリだと思いました。
更に登場人物も時代を感じさせるタイプが多く、主人公の浅川は終始ヒステリーを起こしやすくい人物として設定されており、相手の話を聞くのを面倒くさがるあまり、怒鳴って従わせようとする姿が目立ちます。
今だとモラハラ認定されそうですね。
しかしこれに関しては当時の時代背景だけでなく、ホラーだからこそわざと悪い部分が目立つ設定にされたようにも感じました。
例えば浅川の相棒ポジションであり、自らの意思で呪われにいった高山は「自分は強姦魔だ」と自慢してくる悪党として描かれています。
それを昔から知っていた浅川も、警察に伝えなかった負い目があるせいか、呪いのビデオに高山を巻き込む事に対し、あまり罪悪感を感じていませんでした。
しかし終盤、高山が貞子に呪い殺された後「浅川の前では悪党を演じるため、強姦魔だと嘘をついていた」という事実が判明します。
何故そこまで悪党を演じたかったのかは謎ですが、作品としては余計な感情移入をさせないような人物にして、ホラー要素の方に集中させる狙いもあったのではないか、と勝手に推測していました。
実際、終盤で好感度を上げてきた高山の死は、恐怖よりも悲しみが上回ったので、やはりホラーは同情しづらい登場人物にした方が良いと思いました。
一般的な貞子のイメージとまったく違う?!
テレビに映った井戸の中から、這い出てくる不気味な女……。
映画も原作も知らない私の中にとって、貞子にはその程度の知識しかありませんでした。
他には作品外でプロ野球の始球式に登壇し、割と良い球を投げて帰っていったりと、怖さよりもエンターティナーなイメージの方が強かったです。
近年はお茶目な部分が目立っているような気がします。
そのせいなのか、原作の貞子は私の中でかなりイメージが違いました。
というのも原作の「リング」では、そもそも貞子本人が登場しないのです。
そのため、テレビから出てきてこちらへ迫ってくるシーンもありません。
どうやらあの有名なシーンは、映画版の演出から生まれたものだったようです。
更に貞子自身も、幽霊になるだけの過去があったのは想定内だったものの「実は超能力を持つ両性具有者」であった事までは予想だにしませんでした。
あの世界において貞子だけが強力な幽霊として存在しているのは、ご都合主義のようなものだと思って流していましたが「生前の超能力を行使出来るから強い」という理由はしっかりあったのですね。
いままで何となくで貞子を知った気になっていましたが、やはり原作を読まないと分からないものですね。
ホラーかと思いきや……
貞子のイメージと実態が違ったのは勿論「リング=ホラー」という認識自体も、やや間違いであった事に気付かされました。
確かに間違いなくホラーではあります。
しかし手がかりを集めながらさまざまな説を検証し、呪いのビデオの謎を解いていく過程は、特殊設定モノのミステリーのような構成だと思いました。
貞子の呪いが広がる状況についても、ウィルスなどの存在を出す事で科学的に解明しようとしていきますし、登場人物の中でも鋭い推理力を見せる高山はさながら探偵役のようです。
これは読後に知った話ですが、本書はミステリーを扱う横溝正史賞に応募された過去がありました。
しかしミステリーよりもホラー色が強すぎて惜しくも受賞を逃したという経緯があったらしく、本書のミステリー要素にも妙な納得感がありました。
にも関わらず他のミステリーを抑えて大賞最終候補まで残っていたあたり、当時から非常に評価は高かったようです。
最後に
結局浅川の妻子は助かったのか。
最終的に呪いのビデオはどう処理するのか。
結果は明らかにならないまま、終わってしまいました。
何となく続きがあること前提で書かれていたように感じるラストでしたが、調べてみると案の定続編があるとの事で、いずれ読んでみたいと思います。