この記事は『占星術殺人事件』についてあらすじ・感想などを紹介しています。
【占星術殺人事件】を読む事になったきっかけ
猟奇的な内容のあらすじと、その評価の高さから本書の存在は以前から気になっていました。
それでもまだ私にはハードルが高そうな作品だと思い、これまで手を出してきませんでしたが「どれぐらいミステリー小説に慣れれば、この作品を読めるレベルになれるの?」とタイミングが掴めなくなってきたため、ここまで気になるならいっそ今読んでしまえと思い手に取りました。
【占星術殺人事件】のあらすじ
密室で殺された画家が遺した手記には、六人の処女の肉体から完璧な女=アゾートを創る計画が書かれていた。
その後、彼の六人の娘たちが行方不明となり、一部を切り取られた惨殺遺体となって発見された。
事件から四十数年、迷宮入りした猟奇殺人のトリックとは!?
名探偵御手洗潔を生んだ衝撃作の完全版登場!
「BOOKデータベース」 より
ある日、占星術師である御手洗潔の元に「飯田美沙子」と名乗る女性が訪ねてきます。
彼女は、父親が四十数年前の未解決事件「占星術殺人」の犯人に利用されていた事を告発する手記を持ち込んできました。
「私の父と兄、そして主人は全員警察をやっている。
主人はともかく、冷酷で仕事熱心な兄にこの手記の存在を伝えれば、父の過ちを表沙汰にしかねない。
私は父が可哀想で、そのように割り切ることは出来ない。」
手記の存在を表沙汰にしなくない飯田は、占星術の知識があり、なおかつ友人の事件を解決したという御手洗に事件の調査を依頼します。
しかし御手洗は、この大事件の存在すら知らず……。
【占星術殺人事件】はどのような人にオススメ?
・ミステリー小説をある程度読み慣れている人
・金田一少年の事件簿『異人館村殺人事件』の内容を知らない人
・御手洗潔シリーズの始まりを知りたい人
金田一少年の事件簿『異人館村殺人事件』には「『占星術殺人事件』のトリックを用いている」旨の明記があります。
そのため『異人館村殺人事件』の内容を先に知った人は、間接的に本書のネタバレをされた状態となっています。
実際に『占星術殺人事件』の評判を見てみると「読んでいる途中で『異人館村殺人事件』のトリックだと気づいてしまった」という感想が見られました。
本書に落ち度はないものの、上記に該当する人は「御手洗潔シリーズが好きだから」「具合的な内容の違いに興味がある」等の理由がなければオススメはしづらいです。
【占星術殺人事件】の感想
犯人や真相に関するネタバレはしていませんが、感想を述べる上で一部ストーリーのネタバレ(竹越の手記がどうなったか等)をしているため、未読の方はご注意ください。
ミステリー中級者向け
本書はオススメのミステリー小説として、各地で名前が挙がっているのを見かけます。
しかしオススメに挙がること自体は納得の作品ではあるのですが、ミステリー小説を読み慣れていない人が、これを鵜呑みにして読むとなかなか難しい内容だと思いました。
というのも事件の概要について説明する段階から、その登場人物の多さや占星術の知識、当事者同士の関係等が複雑に絡み合っているため、ミステリー小説に慣れていない人には状況把握が難しいからです。
少なくとも流し読みでサラッと理解出来るようなものではありませんでした。
そのため、ある程度ミステリー小説に慣れている人の方が楽しめるかと思います。
とはいえ、事件当時の様子を分かりやすく伝える図が随所で入ってくるため、そこまで説明自体は不親切なものではありません。
さらに最も理解が難しい占星術に関しては、知っている人の方が話に入り込めそうではあるものの、占星術について無知な私でも楽しんで読む事が出来たため「占星術が分からないから」という理由で避けるには勿体無い作品だと思います。
分かれば爽快感のあるトリック
本書はフェアにヒントが提示されているにも関わらず、トリックを見抜くのはほぼ不可能という、単純にミステリーとしての難易度の高さが魅力です。
だからこそあのトリックが暴かれた時の爽快感は、今でも忘れられないものとなりました。
複雑化しすぎて、分かった時のスッキリ感が半減するようなトリックではなく「その手があったか!」としっかり驚かせてくれるトリックであっため、この部分だけでも本書が名作と呼ばれた理由に納得がいきます。
あの衝撃を味わえるという意味では、ある意味推理しないで読んだ方が楽しめるかもしれませんね。
また460ページ(講談社文庫版)にわたる長編であるにも関わらず、シンプルに謎解きの面白さで読み手のモチベーションを保ち続けてくれるため、読んでいる途中で脱落しづらいです。
強いていえば、初っ端から読まされる手記の占星術云々のくだりでキャパオーバーになりかけましたが、そこを乗り越えると一気に読みやすくなりました。(後述)
御手洗潔シリーズの始まり
今更な感想ではありますが、探偵役として高い知名度を誇る御手洗潔の人物造形もやはり魅力的でした。
面白味のある人物なので、ホームズのくだり等で定期的に読み手を笑わせてくれるのも良い所です。
狂気的な言動が多い御手洗と、猟奇的な内容の占星術事件は、質は違えどどちらも異様な雰囲気を出しているせいか、妙に相性が良かったように思えます。
また冒頭で、難解な手記を読まされ頭が混乱したタイミングで、助手役の石岡と共に登場し、これまでの流れを変えてくれるため、一気に話が読みやすくなりました。
トリックのインパクトが強い本書ですが、この御手洗潔という人物を誕生させた功績も本書が評価された理由の1つでしょう。
シリーズ第1作目は鬱状態での初登場となりましたが、次回作以降はよりハイテンションな彼が見られるのでしょうか。
まとめ
本書を読むまで、あのトリックを知らずに済んだ自分の運の良さに今は感謝しています。
本当に素晴らしい読書体験でした。
余談ですが、事件の真相を知りたがる世間の人々達に竹越文次郎が関係した部分をどう説明したのかが気になります。
彼の名誉のため手記は燃やす方向となったものの、小説内の世界は「占星術事件」の話題で大騒ぎになっているため、このまま竹越の存在を事件から消すのは難しいように思えました。
数多くの素人ホームズがこの事件の謎に挑んだ過去がある事から、さすがに竹越関係の部分に気づく素人ホームズも出てきそうです。
名前を伏せて手記にあった事実を表沙汰にしたのでしょうか。