【感想】「贖罪(湊かなえ)」妙なスッキリさが残るイヤミス

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ミステリー
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【贖罪】のあらすじ

取り柄と言えるのはきれいな空気、夕方六時には「グリーンスリーブス」のメロディ。そんな穏やかな田舎町で起きた、惨たらしい美少女殺害事件。
犯人と目される男の顔をどうしても思い出せない四人の少女たちに投げつけられた激情の言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わせることになる—これで約束は、果たせたことになるのでしょうか?
衝撃のベストセラー『告白』の著者が、悲劇の連鎖の中で「罪」と「贖罪」の意味を問う、迫真の連作ミステリ。
本屋大賞受賞後第一作。

「BOOKデータベース」 より

本書は湊かなえによるミステリー小説であり、作品としては第3作目にあたります。
『第63回日本推理作家協会賞 長編及び連作短編集部門』の候補作にも選ばれました。

感想(ネタバレ無し)

【贖罪】はどんな人にオススメ?(レビューまとめ)

Amazonレビューでは下記のような感想がありました。

批判的な意見
・設定が強引すぎる
・本格的なミステリーではない
・事件の内容的にエンタメ化して良いものではない

女子小学生に対する暴力表現が含まれているため、人と選ぶ作品ではあると思います。
本当に容赦がないので、人によってはトラウマになってしまうかもしれません。

また登場人物の心理的描写に力を入れているため、トリックを重視した作品を求めている人にもオススメ出来ないといえます。

そして最後の指摘の通り、設定の強引さについては同意するのですが、このリアリティの無さのおかげで惨いストーリーに耐えられた部分もあるため、私にはありがたかったです。



肯定的な意見
・読み手に不快感を与える心理的描写が上手い
・凄惨な内容だが、話が面白いので一気に読み進めてしまう
・初心者でも楽しめた

全体的な評価を見ると☆4以上が約8割と高い評価でした。
確かに凄惨な話なのですが単純に小説としてのクオリティーが高いため、読み進められた人が多かったのだと思います。
この先に待っているであろう不快な展開を隠す気が全く無いにも関わらず、それでも読者を先へと読ませる事が出来る著者の力を思い知らされました。

また本書は主要人物が全員女性であり、彼女達が抱える闇をえぐり出す心理描写が光っています。
そのため女性の方が内容的に共感しやすいかもしれません。

【告白】と同じタイプのイヤミス?

湊かなえでイヤミスといえばデビュー作の『告白』。
本書とは下記の共通点があるせいか、読んでいて『告白』を思い出してしまう事がありました。

共通点
・モノローグ形式
・プールで事件が発生する
・登場人物に教師がいる

形式も同じなので『告白』が面白かった人には本書も読みやすいと思います。
むしろ『告白』より前向きとも捉えられる終わりを迎えているため、読後感はそれほど悪くありません。

せきゆら
せきゆら

『告白』には「贖罪する」という意志すらない人物が目立っていたせいか、本書に出てくる人物がまだ真っ当に見えますね…。

感想(ネタバレ注意)

本当に贖罪したのは誰?

娘のエミリを殺された母・麻子は「犯人の顔を思い出せない」という4人の少女達に対し、このように言います。

「わたしはあんたたちを絶対に許さない。
時効までに犯人を見つけなさい。
それができないのなら、わたしが納得できるような償いをしなさい。
そのどちらもできなかった場合、わたしはあんたたちに復讐するわ。」

足立麻子

この言葉を受けた彼女達はそれぞれの思う贖罪をする事となります。(一部例外有り)
しかしその贖罪は彼女達を悲劇に導くものばかりで、内容的にも贖罪と呼べるのか疑問に感じるものばかり。
その上麻子は時間の経過と共に、
「憎むべきは犯人であり、彼女達にはそれぞれの人生がある」
と考えるようになっていたため、彼女達の行った贖罪は必要なかったと早い段階で分かってしまう所が本書のイヤミスと呼ばれる所以です。

そのためこの一連の話を「贖罪」と名付けるのは違うのではないか…と思っていましたが、先へ読み進めると事件の元凶は麻子である事が明らかになってきます。

そして最後に贖罪の順番が回ってきたと察した麻子は、自身の贖罪を果たします。
そのためこれは
4人の当事者達が麻子へ贖罪をする物語」
ではなく、
「間違った贖罪へ彼女達を導き、人生を狂わせた麻子が本当の贖罪をする物語」
だったのではないかと思うようになりました。

とはいえ麻子自身、意図的に読み手へストレスを与える言動をしている事もあり、その贖罪方法も賛否両論ではありますが…。

(考察)ラストの犯人の対する解釈は?

最終的にエミリを暴行し、殺害した犯人は南条でした。
彼は最後にエミリが自分の娘だった事を教えられます。
その後南条がどうなったかについて、麻子はこのように言及していました。

「わたしがしなければならないのは、わたしが過去の罪を告白して、そして、犯人の男、南條弘章に真実を告げることだと思った。
エミリの父親はあなたです。
そうはっきり告げてきた。」

「それ(南條が迎えた結末)についてわたしがどう思っているのかは、ここに書かなくても、あなたたち(事件の当事者達)なら理解してくれるんじゃないかと思う。
これで、あなたたちは私を許してくれるかしら。
長い呪縛から解放されたかしら。」

足立 麻子

はっきりとどうなったかまでは明らかになっていないため、読み手側で解釈する他ありません。
少なくともテレビや新聞で報じられるレベルの行動を起こしている事から「自首した」もしくは「自ら命を絶った」「逃亡し、行方をくらませた」等の可能性が挙げられます。


ここから先は完全に私の予想となってしまいますが、少なくとも逃亡はしていないと思います。
麻子の回想に出てくる南条は、本来の人柄に異常性が感じられない上、動機もあくまで麻子への復讐だったのを見るに、自分が暴行し殺害したのは血の繋がった娘だという事実に耐えられるとは思えません。

残る二つの可能性がどちらもありえそうなのですが、私は南条が自ら死を選んだのではないかと思っています。
理由はこれまで当事者の女性4人が行なってきた贖罪の内容です。
彼女達全員の贖罪に共通しているのは、事件に囚われ続けた結果、女子供に危害を加えようとする男性を殺してしまった事です。
そして皆、これを麻子への贖罪としました。
彼女達の贖罪を見るたびに麻子は「彼女達の次は自分が贖罪する番だ」という確信を強めていきます。
南条に真実を告げたのは、全員の贖罪が終わったこのタイミングです。
彼女達の導きにより自身が全ての元凶だと悟った麻子は、義務として南条にその罪と真実を告白します。

しかし贖罪の順番は既に麻子へと回って来ていました。
これまで一人の贖罪につき、必ず男性一人を死なせてしまっている事態を見るに、麻子の贖罪によって死んだのは南条だったのだと思います。

これで全員の贖罪が終わったのです。

【贖罪】を読んで学んだこと

一時の感情で放った言葉により、これでもかというほど他者の人生を狂わせた本書。

さすがに現実でここまでの事態には発展しないでしょうが、自身の心ない言葉によって、相手の心に傷を負わせる可能性がある事は常に意識しなければいけないと思いました。

また気弱な紗英や自己肯定感が低い晶子が、麻子の言葉を真に受け、ネガティブな方向へ突き進んでいたのに対し、麻子の言葉が理不尽であると気づいた由佳や真紀がまだ救いがある終わり方だったのを見ると、言われた側も相手の言葉の理不尽さを見極める力が必要なのだと痛感しました。



せきゆら
せきゆら

この記事の他に、同じく湊かなえの「高校入試」「往復書簡」「Nのために」等のレビューも書いておりますので、よろしければご覧ください!



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