この記事では『巴里マカロンの謎(米澤穂信)』のあらすじや感想を紹介していきます。
前作「秋期限定栗きんとん事件」から何と約十一年ぶりに刊行された小市民シリーズ。今作は番外編のような位置づけであり、時系列も高校一年の二学期へと遡っています。
小市民シリーズの感想記事はコチラから↓
1.春期限定いちごタルト事件
2.夏期限定トロピカルパフェ事件
3.秋期限定栗きんとん事件
4.巴里マカロンの謎(当記事)
5.冬期限定ボンボンショコラ事件
【巴里マカロンの謎】のあらすじ・登場人物
「わたしたちはこれから、新しくオープンしたお店に行ってマカロンを食べます」
「BOOKデータベース」 より
その店のティー&マカロンセットで注文できるマカロンは三種類。
しかし小佐内さんの皿には、あるはずのない四つめのマカロンが乗っていた。
誰がなぜ四つめのマカロンを置いたのか?
小鳩君は早速思考を巡らし始める…
心穏やかで無害で易きに流れる小市民を目指す、あのふたりが帰ってきました!
登場人物
小鳩 常悟朗……主人公。時系列的に今作では船戸高校1年生。
小佐内 ゆき……ヒロイン。同上。
堂島 健吾……新聞部部長。同上。
古城 秋桜……礼智中学3年生。
【巴里マカロンの謎】はどのような人にオススメ?
・スイーツを使った謎解きに興味がある人
・日常ミステリーが好きな人
・人が死なないミステリーを読みたい人
【巴里マカロンの謎】の感想
ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。
今作のキーパーソン・古城秋桜
連作短編集となる今回、中心人物となるのは「古城秋桜」という女子中学生です。
パティシエ・古城晴臣の娘で、母が亡くなる前から再婚を見据えていた父に反発心を抱いています。
彼女はとあるきっかけで小佐内に出会って以降「スイーツの師匠」と呼び彼女を慕っていました。
小佐内側はその距離感の近さにやや困惑気味ながらも、スイーツという共通点で話が合う上、復讐対象に入るような行為もしてこないため関係は良好のようです。
その流れで小佐内と互恵関係である小鳩とも接点を持つようになり、秋桜の周囲で起こる事件や謎に巻き込まれていく事となります。
基本的に「伯林あげぱんの謎」以外の短編すべての話に彼女が深く絡んできます。
「伯林あげぱんの謎」は雑誌の犯人当て企画のために書き下ろされた作品らしいので、むしろこちらが今作の中では異質な存在のようです。
秋桜の立ち位置は一連のエピソードごとに犯人役・助手役・依頼人役とめまぐるしく変化していきます。
このあたりの役割の入れ替えは「夏期限定トロピカルパフェ事件」を思い出しました。
このパターンであれば「この人物は◯◯役」というシリーズもののミステリー小説にありがちな先入観に捉われずに読めるので、ワクワク感が増しますね。
各短編の感想
巴里マカロンの謎
「新しく名古屋にオープンしたスイーツ店〈パティスリー・コギ・アネックス・ルリコ〉の新作マカロンを食べたいが、秋の限定フレーバーが四種類あるにも関わらず、三種類しか注文出来ない。
一緒に来て残りの一種類を注文して欲しい」
と頼み、放課後に小鳩を店へと連れて行った小佐内。しかし小佐内が頼んだマカロンだけ何故か四つに増えていた。これを警戒した小佐内は、小鳩を巻き込んでマカロンが増えた理由を推理しはじめる。
序盤の「何故、小佐内のマカロンが1つ増えていたのか」という平和な謎解きから一転、謎が謎を呼ぶ二段構えの展開に驚かされました。
これまでのスイーツ巡りと違い、今回は冒頭から店やパティシエに関する情報などが事細かく開示されるため、店そのものに謎がある事は察せられるのですが、その情報が思わぬ方向へ鮮やかに繋がっていく過程がお見事でした。
紐育チーズケーキの謎
何か訳アリな様子の小佐内から「礼智大学の文化祭に行かないか」と誘われた小鳩は、
互恵関係に従いついていく事に。
彼女が向かった模擬店にいたのは、先日出会った古城秋桜だった。
本シリーズ恒例の「小佐内は今回、何をしたのか」を解いていくお話。
これまでタイトルにスイーツが入ってくるのが本シリーズの特徴でしたが、あくまでスイーツは登場人物やストーリーに関わってくる要素として活かしていた過去作に対し、今回の「ニューヨークチーズケーキ」はミステリーの要素に活かされていたのが面白かったです。
小佐内の復讐心が絡むエピソードなので相変わらずスリリングな展開が見られるのですが、今回の小佐内はぶつかってきた1年生に対し、マシュマロを台無しにされたにも関わらず怒らない寛容さも見せていました。
本編中に小佐内が言っていた「私は年下には優しい」という発言もあながち嘘ではなかったという事でしょうか。
復讐の大義名分が欲しい小佐内としては、被害者でもあった一年生より元凶(柔道部の先輩)の方がやりやすかったのかもしれませんね。
伯林あげぱんの謎
記事の特集のため一つだけマスタードが入った揚げパンを用意し、誰に当たるか遊ぶゲームを行なった新聞部の部員達。
しかし全員「マスタード入りを食べなかった」と証言した。
そのタイミングで偶然新聞部にやってきた小鳩は、部長の堂島から解決を依頼される。
今作の堂島回。
新聞部という事で前作「秋期限定栗きんとん事件」に登場した門地も再登場します。
前作では何かと後輩の考えを頭ごなしに否定し、衝突を起こしていた門地。
今回も同級生の部員と確執を起こしたり、プライドのために嘘をついた事で謎を複雑化させていたりとなかなか厄介な人物に仕上がっています。
そんな彼が唯一文句を言えない存在である堂島は、日頃どれだけの人格者ぶりを発揮しているのか気になる所です。
謎解きに関しては、誰が犯人なのか自体は分かりやすく提示されているのですが、元々犯人当て企画のために書き下ろされた作品というのもあり、そこに至るまでの過程がパズルのように複雑でした。
花府シュークリームの謎
突如、小佐内に「無実なのに停学にされた」と電話してきた秋桜。
以前事件を解決させた腕を秋桜に見込まれた小鳩も同行し、話を聞きに行くと、
「クラスメイトの何人かがやっていた未成年飲酒に、自分も加わっていた事にされていた。
誰が自分を陥れたのか知りたい」
と依頼される。
学生が主要人物となる本シリーズでは珍しく大人の悪意が絡んでくる話。
不自然なあだ名の伏線等に違和感は感じさせられるものの、その意味を知らなかった事も有り、答えにはまったく到達出来ませんでした。
事件解決後、秋桜が犯人にどのような措置を取ったのかはあえて明らかにしないまま終わってしまいます。
しかし小佐内の「秋桜は良い子だから復讐まではしない」という分析と、ラストで晴れやかな笑顔を浮かべていた秋桜と瑠璃子(晴臣の再婚相手)の様子を見るに、謝罪と停学処分の取り消しあたりまでは出来たのではないかと思います。
それにしても今回、瑠璃子が忙しい仕事を休んででも義理の母として秋桜を助けにいったのに対し、停学処分の話を知っていながら一切関わってこなかった実の父・晴臣の株は異様に下げられたまま話が終わってしまいました。
秋桜関係の話は何となくまだ続きそうな予感がするので、何かしらの機会でいずれ彼にも焦点を当てて欲しいですね。
最後に
毎回スイーツの描写が恒例となっている本シリーズですが、中でも今回は中心人物がパティシエの娘というのもあり、スイーツに焦点を当てた謎解きが多かったのが印象的でした。
そのため毎回スリリングな展開を用意してくる小佐内も、今回は復讐好きな一面よりスイーツ好きな一面が強く出ており、本シリーズ至上最も平和な作品となっています。
スイーツ関係以外にも、普段は見られない小佐内の可愛い一面を多く見られたのは嬉しかったですね。
刊行順では四作目ですが、時系列的に第一作目「春期限定いちごタルト事件」と「夏期限定トロピカルパフェ事件」の間となっているため、第一作目を読み終えたタイミングで読むのがオススメです。