【感想・ネタバレ】今更ながら初めて読んでみた「僧正殺人事件(S・S・ヴァン・ダイン)」

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ミステリー

この記事では「僧正殺人事件(S・S・ヴァン・ダイン)」のあらすじや感想を紹介していきます。

恥ずかしながらチェスをまったく知らなかったため、僧正がビショップであると本書で初めて知りました。

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【僧正殺人事件】のあらすじ・登場人物

だあれが殺したコック・ロビン?「それは私」とスズメが言った—。
四月のニューヨーク、この有名な童謡の一節を模した不気味な殺人事件が勃発した。
マザー・グース見立て殺人を示唆する手紙を送りつけてくる“僧正”の正体とは?
史上類を見ない陰惨で冷酷な連続殺人に、心理学的手法で挑むファイロ・ヴァンス。
江戸川乱歩が称讃し、後世に多大な影響を与えた至高の一品。


「BOOKデータベース」 より

登場人物(多すぎるので一部のみ)
ファイロ・ヴァンス……アマチュア探偵
ジョン・F・X・マーカム……ニューヨーク州地方検事
アーネスト・ヒース……殺人課の部長刑事

ディラード家
バートランド・ディラード……著名な数理物理学の元教授
ベル・ディラード……バートランドの姪
シガード・アーネッソン……バートランドの養子、数学の准教授
パイン……執事
ビードル……料理人

ドラッカー家
アドルフ・ドラッカー……科学者、著述家
ミセス・オットー・ドラッカー(レディ・メイ)……アドルフの母親
グレーテ・メンツェル……料理人

その他
ジョン・パーディー ……数学者、チェスの名手
ジョーゼフ・コクレーン・ロビン……アーチェリーの選手
レイモンド・スパーリング……アーチェリーの選手、土木技師
ジョン・E・スプリッグ……コロンビア大学四年生

【僧正殺人事件】はどのような人にオススメ?

・童謡殺人というテーマの先駆けとなった作品が読みたい人
・数学、天文学、物理学などの分野が好きな人
・サイコサスペンスが好きな人

探偵役であるヴァンスだけでなく、登場人物に研究者が多い事から数学、天文学、物理学等のウンチクが非常に多く出てきます。
またチェスの話も出てくるので、詳しい人の方が話についていきやすいと思います。

せきゆら
せきゆら

もちろん、分からない方でも楽しめる内容になっています。

【僧正殺人事件】の感想(以下ネタバレ注意)

ネタバレが含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください。

童謡殺人に分類される作品の先駆け

本書の大きな特徴といえば、やはり童謡に見立てた不気味な殺人です。
これだけを聞くとよくある特徴なのですが、本書の場合は後述の通り、ミステリーとして初めて本格的に童謡殺人を扱ったという大きな功績があります。

「僧正殺人事件」の魅力・読みどころを端的に要約すると、イギリスの伝承童謡マザー・グースを初めて題材として本格的にミステリに採用して、無類のサスペンスを醸成したアイディアの妙ーということになるだろうか。

山口雅也「童謡見立て殺人というアイディア」より

元々私が本書を読むに至った理由も、以前金田一耕助シリーズの「獄門島」を読んだ際、作者の横溝正史が「『僧正殺人事件』のような童謡殺人を書きたいと思っていたが、二番煎じと批判されるのを恐れて諦めていた。
しかしその後、同じく童謡殺人を題材にしたアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』が出た事で『獄門島』を書く決意をした」
という話を知った事がきっかけでした。

金田一耕助シリーズにまで影響を及ぼした作品となると、やはり気になってしまいます。
しかしまさか童謡殺人というテーマを開拓した作品に位置付けられているとは思いませんでした。

せきゆら
せきゆら

「童謡殺人」を扱う作品自体は、本書より前から存在していたらしいですが、ミステリーとして本格的に扱ったという意味では「僧正殺人事件」が始まりだそうです。

本書がなければ「獄門島」どころか、その後生まれた「悪魔の手毬唄」すらもこの世になかったかもしれないと考えると、本書にはとにかく感謝の思いしかありません。

せきゆら
せきゆら

ちなみに引用元曰く、厳密にいうと「僧正殺人事件」は童謡ではなく「獄門島」と同じ俳句の見立て殺人だそうです。

犯人自体は分かりやすいが……

犯人自体は分かる人がかなり多そうだと思いました。
数学やチェスを意識させる犯行なので、その手の知識がないベルや使用人達は早い段階で候補から除外されます。
更に残った犯人候補も次々と殺害されるので、最終的に犯人は2択に絞られ、一気に難易度が下がりました。

動機を知った今なら、自分から犯人候補を消していった理由に納得は出来るものの、読んでいる時は本当に「えっ、その人殺して良かったの?」と心配になるほど怪しい人物が消されていったので、いよいよベル達の中に、本当は犯行に必要な知識を隠している人物がいるのでは…とつい勘繰ってしまいました。

せきゆら
せきゆら

ムダに深読みしすぎです。

そして最後の2択ですが、あれはどんでん返しの上手さに完全にやられました。
冷静に考えると、あの人物を犯人として疑う読み手は少ないと思うのですが、展開の上手さでこちらの心情を巧みに操り、疑いの目を向けさせたのはお見事でした。

私も最初はミセス・ドラッカーの遺書を見て、
「犯人が遺産目当てでドラッカーを殺したという動機がバレないよう、無関係な人間ごと童謡という共通点を持たせてから殺す事で、疑いの目を逸らそうとしたのではないか」
と推理しましたが、気づいたらヴァンスと犯人の仕掛けた罠にあっさり引っかかっていました。
それに推理した動機も遺産ではなく、そっち?!という方向の答えで完全敗北です。
ヴァンスは数学者の心理に焦点を当てていたのに、安易に金目当ての殺人に結び付けたのが失敗でした。

せきゆら
せきゆら

それと見立て殺人から遺産の話が出てきたところで、ついあの名作を思い出し、引きずられてしまった感は否めません。

最後に

ラストのヴァンスが起こした行動を見た時、先述した作品とはまた違う作品の探偵を思い出しました。ネタバレになるため作品名までは書きませんが、本書が刊行された数年後に出た作品らしいので、もしかすると先述の作品も含め「僧正殺人事件」の影響を受けていたのかもしれません。

せきゆら
せきゆら

近年のミステリーで描かれる探偵の中で、あの決断に踏み切る人物はほとんど見ないので、当時だからこそギリギリまだ描く事が出来たやり方なのだと思いました。

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