【感想】「魔眼の匣の殺人(今村昌弘)」4人犠牲になるまで逃げられない?話題作の続編

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ミステリー

本書は『屍人荘の殺人』の続編です。
前作の内容を含めた感想となりますので、未読の方はご注意ください。

剣崎比留子シリーズの感想記事はコチラから↓

1.屍人荘の殺人
2.魔眼の匣の殺人(当記事)
3.兇人邸の殺人(後日更新予定)

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【魔眼の匣の殺人】のあらすじ

「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」
人里離れた施設に暮らし、予言者と恐れられる老女は、その日訪ねた葉村譲と剣崎比留子ら九人に告げた。
直後、彼らと外界を結ぶ唯一の橋が燃え落ちて脱出不可能に。
予言通りに一人が命を落とし、さらに客の女子高生が予知能力者と判明して慄然とする葉村たち。
残り48時間、死の予言は成就するのか。
ミステリ界を席捲したシリーズ第2弾!

「BOOKデータベース」 より

紫湛荘での事件に巻き込まれた剣崎と葉村は、事件の元凶である「斑目機関」について調査を続けていました。
そんなある日、葉村が手がかりとして持ってきたのは雑誌『月刊アトランティス』
そこには紫湛荘で起きた事件を含め、未来に起こる事件を予言する手紙が『月刊アトランティス』編集部に届いたと書かれていました。
更に「M機関と名乗る者達が過去、W県の人里離れた村に実験施設を建て、超能力実験を行なっていた」という手紙まで届いたといいます。
これを見た剣崎はひそかに馴染みの探偵に調査依頼を出し、W県の好見に研究施設があるとの情報を掴みます。
自身の「定期的に事件を引き寄せてしまう体質」を考慮した剣崎は、そろそろ事件に巻き込まれる時期と考え、葉村を巻き込まず1人で研究所へ向かおうとしますが、葉村も強引に同行してきました。
そして剣崎の予想通り、好見でも2人は事件に巻き込まれる事となります。

【魔眼の匣の殺人】はどんな人にオススメ?(レビューまとめ)

Amazonレビューでは下記のような感想がありました。

批判的な意見
・動機が納得出来ない
・アイディアとしての斬新さは前作【屍人荘の殺人】の方が上

前作同様「特殊設定をミステリーに組み込む」というやり方を行なっているため、目新しさは少ないです。
インパクトも前作が強すぎたため、やや地味な印象を受けます。
とはいえ今作も同じ形式だった事で、このシリーズの方向性が定まったように感じますね。

動機に関してはネタバレになるため、後述します。


対して肯定的な意見も紹介します。

肯定的な意見
・本格ミステリーとしては前作【屍人荘の殺人】よりクオリティーが高い
・予言を上手くミステリーに落とし込んでいる
・剣崎と葉村の関係が前作【屍人荘の殺人】より魅力的に描かれている
・一気読みさせるほど、話へ引き込む力がある

斬新さは前作に劣る代わりに、ミステリーとしての評価は上がったようです。
そのため「前作を超えた」という見方も出ていました。
「アレ」のインパクトがなくなったからこそ、ミステリーとしては読みやすくなった部分もあるかもしれません。
個人的には気になる部分もあったものの(後述)、ミステリーとしては前作以上の完成度になっていたように感じます。

更に前作では掘り下げきれなかった、剣崎と葉村の関係についてもしっかり描かれていました。
この2人の関係をどのような形で完成させるのかも、このシリーズの見所ですね。

せきゆら
せきゆら

今回もミステリー×特殊設定なので前作【屍人荘の殺人】が刺さった人は読みやすいです。

前作【屍人荘の殺人】を読んでいなくても楽しめる?

謎解きに支障は出ませんが、ストーリーを理解出来ないと思います。
何となく「剣崎・葉村がとある因縁から、謎の組織を追いかけている」という事しか分からないです。

更に前作の登場人物についても、ネタバレされています。(確認した限り2名)

剣崎&葉村のやり取りも、前作を読んでいなければ分からない内容が含まれているため、本書から読み始めるのはオススメしません。

【魔眼の匣の殺人】の感想(ネタバレ注意)

せきゆら
せきゆら

以降、最後まで本書と【屍人荘の殺人】のネタバレをしておりますのでご注意ください。

●●●の次は予言×ミステリーの融合

『屍人荘の殺人』ではミステリー×ゾンビが融合していましたが、本書はミステリー×予言の融合となってます。
そして今回もゾンビと同じく「予言を恐れる者達によって、剣崎達が閉じ込められる」というクローズド・サークルを成立させるきっかけとして利用されています。
更に「男女2人ずつ死ぬ」という予言により、あらかじめ死亡する人数・性別が決められた状態でストーリーが進むのも特徴です。

せきゆら
せきゆら

そのため「予言の内容から推理をする」という、一風変わった特徴を持つ謎解きとなっています。

定番の流れは健在

前作にあった剣崎への調査報告や葉村の学食推理は今作も健在です。
更に本書でこれまで剣崎に調査報告をしていたのは「カイドウ」という探偵である事が明かされました。
今回も報告という形でしか出てきませんでしたが、今後登場するのか気になりますね。

そして恒例の葉村による学食推理ですが、今回の推理も大ハズレでした。
好みやその時の気分に左右されやすい他人の昼食を当てるのは、ある意味事件の犯人当てよりも難しいかもしれませんね。
仮に当てられたとしても、偶然の一致という可能性もありますし。

前回は明智と2人で盛り上がりながらの推理でしたが、今回は葉村1人で推理をしていた事から遠回しに「明智はもういない」という事実を再び読み手へ突きつけてくるのが残酷です。

犯人は?

予言通りに亡くなった男性2名(臼井・茎沢)・女性2名(真理絵・朱鷺野)の内、臼井は土砂崩れに巻き込まれ、茎沢はクマに襲われたのが死因である事から犯人はいません。

真理絵は王寺(男)に殺害されており、共犯の朱鷺野が嘘の証言をする事で王寺に疑いが向かないようにしていました。
彼らは「男女2人ずつ死ぬ=同性が2人犠牲になれば自分は助かる」という動機から犯行を行っていたのです。
男性である王寺が女性の真理絵を殺害したのは、交換殺人(異性を殺害)という形にする事で、この動機が成立しないように見せるためでした。

しかしその後、剣崎が自身の死を偽装した事で計画は狂います。
予定通りなら次は朱鷺野が男性を殺害する番でした。(この時点で男性の犠牲者は臼井のみ)
しかし剣崎の偽装により朱鷺野目線では、女性の犠牲者が真理絵・剣崎で埋まり自身の生存が確定してしまったのです。
彼女は王寺へ一方的に共犯関係の破棄を宣言します。
しかし激怒した王寺と押し問答になっている内に、朱鷺野は頭を打ってしまい死亡したのです。


犯人の人選に関しては賛否両論だったようですが、私はそこまで不自然さは感じませんでした。
というのもサキミの予言する事件や災害は、過去に班目機関が総力を挙げて阻止しようとしても何故か「天文学的な確率の不運」の積み重ねで実現してしまうほど強力な力でした。
そのため「過去の経験により、予言に操られやすくなっている王寺・朱鷺野に魔が差してしまう確率」が当たっても、それ程おかしくはないかと思います。
どちらかといえば彼らの背中を押した黒幕の行動がイマイチ弱い事で、展開に納得出来なかった人が多かったのではないでしょうか。





彼らが疑心暗鬼になるよう誘導していたのはサキミでした。
しかし最後で彼女はサキミではなく、「岡町」という人物であった事が明かされます。

岡町について
・斑目機関の元研究者。
・真里絵の祖父である勤の元助手
・勤に想いを寄せていたが、勤はサキミを愛していた
・サキミの予言を阻止出来ず、研究者としての立場が悪くなっていった勤は、愛するサキミを連れ研究所を出て行った。
その際、岡町はサキミの身代わりとして残され現在に至る
・岡町に予言能力は無いが、サキミが研究所を出て行く前に残した予言をそのまま伝えることで、予言者としての地位を確立した。
周辺の住民からはその存在を疎まれているが、予言を的中させる事で地位を保っている。

岡町の目的
・今回の予言で犠牲者になる。
→今回出した予言で、サキミの残した予言ストックがなくなってしまった。
このまま偽者である事が露見し、権威が失墜するのは持ち前のプライドの高さが許さないため。
・自分を捨てて幸せな家庭を築いた勤、サキミへの復讐

行動
・『月刊アトランティス』に手紙を送る
→月刊アトランティスの記者(臼井)をおびきよせ、予言が的中する所を見せる事で班目機関とサキミの存在を日本中に知らしめるため。
これにより自身の威厳を保った上で、「呪いの予言者」としてサキミの名を残す事で復讐する。(失敗)
・カウンターにある4つのフェルト人形を、犠牲者が出るたびに減らした。
→一同の疑心暗鬼を誘発させるため。
復讐として、勤とサキミの孫である真理絵を予言の犠牲者にしたかったため、互いに争い合うよう誘導
・自ら毒を飲み命を絶つ
→上記の目的達成のため。(失敗)
更に、サキミ譲りの予言能力を持つ真里絵なら毒を飲む所を直前で予言出来る。
そこへ予言能力を信じない者達が真理絵に毒殺容疑をかける事で、彼女が孤立するよう仕向ける。

やたら「岡町」という名前が出てくるため引っかかる部分はありましたが、まさかサキミだとは思いませんでした。
勤の研究ノートには男性と誤認するように書かれているため(叙述トリック)、サキミと繋げられる人も少なかったのではないでしょうか。
彼女は裏で一同の疑心を誘発させ、真里絵を殺害させる事に成功しました。
しかし前述の通り、人形を減らし毒を飲んだだけで真里絵殺害まで持っていけるのか?という疑問が残ってしまいあまり納得出来ませんでしたね。


本当にそれだけしかやっていないため、逮捕も出来ないのが歯がゆい所です。
そんな岡町に対し剣崎は、
「最後に残っていた予言で死ねなかった貴方は、次の予言が出せずに偽者だとバレる。
人里離れたここに住んでいる貴方(岡崎)は知らないだろうが、班目機関に関する報道は封殺されているため、日本中にサキミの名は広める事は出来ない。
偽者とバレないためには、自分の死を予言した後に死ぬしかない」
と一矢報いるかのような予言返しをしていました。

これを聞いた岡町は激昂していましたが「過去に数々の予言を的中させてきた実績がある以上、簡単に偽者とバレる事はないのでは?」と思ってしまいスカッとはしませんでした。
本物のサキミにとっては、名が広まるよりも孫が自分の予言で犠牲になったという事実の方が辛いでしょうし、岡町にはまだ予言者としての威厳を保ちながら退場する方法(自分の死を予言として出す)が残っているため、やはり岡町の一人勝ち感が否めません。
名が広まらないのは、持ち前のプライドが許さなかったという事でしょうか。

せきゆら
せきゆら

そういう意味ではイヤミスの部類に入るかもしれないですね。

葉村は剣崎のワトソンになれるのか

前作は剣崎が葉村を助手として熱望し、スカウトした所を「あなたの助手にはなれない」と断られていました。
しかし今作は葉村が剣崎の助手になろうとしていた所を「やっぱり私は君のホームズにはなれないみたい」と拒否されてしまう展開となります。

剣崎は自身の体質が引き寄せた紫湛荘の事件が、想定以上の被害を出した事実を重く受け止めていました。
そのため今の彼女にとって葉村は事件から守る存在となっていたため、斑目機関に関する調査にも同行させないようにしていました。
共に戦う側から外された葉村は納得がいかず、強引に剣崎の調査に同行します。

しかし剣崎はその先で起きた事件でも、葉村を守る側に回しました。
それが自らの死を偽装するという策です。
交換殺人に気づいていた剣崎は、自身が2人目の犠牲者になる事で、朱鷺野が男性を殺害する理由をなくしました。
これは葉村が男性(朱鷺野の殺害対象)だからです。
もし計画通りに朱鷺野が男性1人を殺害するのであれば、相手は葉村か師々田親子しかいません。(この時茎沢はまだ行方不明扱い)
その場合、親子連れで行動する師々田達よりも葉村の方が狙いやすいです。

この偽装に騙された朱鷺野は殺人を放棄し、王寺と内輪揉めを起こした事で自分が女性2人目の犠牲者となってしまいましたが、剣崎はそうなる可能性を承知した上で葉村を守る選択を取りました。

また王寺と命がけで対峙する場面でも、剣崎は葉村を巻き込まないよう遠くに彼を配置しました。
これは葉村にとってのホームズ像(明智)を完全に無視したやり方です。
事件解決後、ようやく彼女の真意にたどり着いた葉村は独白します。

彼女が選んだのは、俺のホームズにならないという道だ。
俺が側にいようとする限り、彼女はそうやって俺を守るつもりなのだ。

違う。
このままでいいはずがない。
たとえ彼女が俺のホームズでないとしても。
俺は、彼女のワトソンにならなければならない。

葉村は前作の事件を受け、ワトソンになる事に負い目を感じていましたが、今回の一件で考えが変わり吹っ切れたようですね。
しかし剣崎の「事件を引き寄せてしまう自身の体質によって、大切な人が死んでしまうかもしれない」という悩みが深刻すぎて、ここから葉村がどう向き合っていけば解決出来るのか予想がつきません。

せきゆら
せきゆら

いままでにない探偵と助手の形で、見ていて新鮮なコンビですね。

〈真里絵と茎沢〉〈剣崎と葉村〉の対比

サキミ由来の事件や災害を予言する能力を持つ真里絵と、彼女の予言によって救われて以来つきまとうようになった茎沢。
この2人は剣崎・葉村のコンビによく似た関係です。
剣崎と真里絵は「特異な体質のせいで周囲にいる人物が死んでいく」という共通の苦しみを持っていたため、互いに惹かれ合っていました。

そして今回葉村も「探偵を雇い剣崎を監視させ、彼女が調査に向かう所を無理矢理同行する」という、茎沢ばりの強引さで付いて来たため、立ち位置的にはやや彼に近いです。
今回剣崎がやたら葉村をストーカー扱いしていたのも、茎沢と葉村が同じ立ち位置である事を強調したかったのではないかと思いました。

そんなよく似た2組でしたが、十色はその予言能力に危機感を抱いた王寺に殺害され、これにショックを受けた茎沢も建物を飛びだし、熊に襲われ死亡するという結末を迎えました。
設定的に彼らは続編以降も活躍しそうな気配がありましたが、それを容赦無く退場させる手法は明智を思い出させます。



そして茎沢の死を目の当たりにした葉村はこのように独白していました。

十色の死を目の当たりにし、失意のまま自らも短い人生を終えることになった茎沢に対し、俺は深い哀れみを覚えずにはいられなかった。
特殊な能力に翻弄された十色と彼女の支えになろうとした茎沢の関係は、ある意味比留子さんと俺の鏡像だったのかもしれない。

葉村 譲

予言がテーマとなっている本書で、最悪の結末を迎えた「真里絵・茎沢」が「剣崎・葉村」の鏡像とされているのは「これが剣崎達の行く末である」と言わんばかりで不吉ですね。
ミステリーでありながらわざわざ事件性が無いやり方で茎沢を死なせたあたり、対比のために2人を登場させたように見えてしまいます。(臼井も事件性の無い死ですが、あれは王寺のトラウマを刺激し犯行に駆り立てるきっかけとなっています)

最後に

ラストは分かりやすく続編を匂わせる終わり方をしました。
剣崎達と斑目機関の因縁はまだまだ続きます。
ちなみに前作で行方不明となった重元については「いまだ行方不明」との言及がありました。
死亡と明言されないまま、本書でも彼の名前が登場したのを見るに、再登場する可能性もありそうなので今後に期待ですね。

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